首記の課題は、第二次世界大戦の敗北を受けてから、諸先輩によって議論されてきましたが、日本が置かれている環境も少しずつ変わり、また、人により考え方も大きく違うので、結論がないまま、試行錯誤しながら、今日まで来たのではないかと思います。

 長期的視野に立てば、やはり、日本はアジアの盟主として、存在感ある指導的立場に育って欲しいと、私は願っています。

 しかしながら、戦後、七七年間も経っているのに、日本は、未だ、アメリカの子分的立場から脱皮できずにいるのは、大変残念に思う次第です。

 この原因の一つは、金科玉条の「日米安保条約」であり、二つ目は、田中角栄を象徴とするように、少しでも反アメリカ的政策をとると、国民によって潰されることにあると思います。

 イラクのサダム・フセインは、一般的には、アメリカによって殺害されたと言われていますが、形の上で、民主的に、イラクの裁判で死刑判決を受けました。つまり、国民によって殺害されました。アメリカは、三大独裁者を排除すれば、中東は平和になるとうそぶいて、フセイン及びカダフィを排除し、アサッドとは未だ戦っていますが、結果はご存知の通りです。

 この意味では、ウクライナも似ていると思います。親ロシア派といわれるヤヌコーヴィチ大統領は、ほとんど明らかに、二〇一四年二月、ヌーランド米国務省欧州担当、兼ユーラシア担当局長(当時)によって排除されました。そのヌーランドは、現在は、国務次官に昇格して、バイデン及びブリンケンを支えています。

 因果関係についての証明は難しいのですが、一九九一年、ソ連との冷戦終了から、三〇年間、他の先進国のGDPは伸びているのに、日本が全く伸びないのは、アメリカの子分的立場から脱皮出来ないためと私は信じています。

 具体的には、一九九一年からの三〇年間に、アメリカのGDPは名目で三倍、中国は何と二七倍になりました。中国の統計は信じられないという人もいますが、現実に、中国は、世界にその存在感を示しています。また、もうすぐ、GDPでアメリカを抜くと言われています。購買力平価(Purchase Power Parity)では、既に、中国はアメリカを抜いていると言われています。

 一方、日本は、二〇一六年一二月、閣議決定で、GDPの計算方法を変更し、一九九四年に遡って、四〇兆円くらいGDPを増やしましたので、実際は、四〇兆円減額して比較する必要があると思います。)

 GDPは、国民の幸福度とは関係ないとは言え、されどGDPだと思います。

 我々の現役時代は、語学がさほど堪能でない私などでも、ヨーロッパでは、大きな顔をして歩くことが出来ました。GDPは、日本人の給料が上がらないのも関係していると思います。防衛費、教育費など、すべてに影響していると思います。今や、日本は、発展途上国の逆の後退途上国だと思います。

 日本は、一九八〇年代、Japan as No.1などともてはやされた頃の考えから抜けきらず、G7の一員などと大判振る舞いをしていますが、一日も早く、現実に、目を覚まして貰いたいと思います。G7のメンバーの資格があるのかと私は思います。もし、我が身を振り返って、現実に目覚めれば、東アジア・東南アジア諸国と同じように、米ロ及び米中対立の中で、賢く行動出来ていたはずです。

 ご存知のように、ロシアに非友好国と指定された四八ヶ国・地域の中に、顔を出しているアジアの国は、アメリカの子分である日本・韓国・台湾、そしてシンガポールだけです。インドは、アメリカにQUADのメンバーとして、日本に呼ばれ、形の上は、中国・ロシア包囲網に加わっているように思われますが、五月二四日のStatementを見る限り、ロシア・中国の国名は書かれておらず、主として、CO2やCOVID—19などの話になっています。そして、包囲網には加わっておらず、逆に、BRICSのメンバーとして、存在感を発揮しています。

 この日、日本で一、〇〇〇億円の円借款の調印をしています。何とインドは賢い国かと思います。

 さて、序文は、このくらいにして、当面のウクライナ問題、台湾有事問題等について、私見を下記します。

1 現状認識

①先ず、第一に、岸田首相ははしゃぎすぎだと私は思います。

 私は、NATO会議に、折角、呼んで貰ったのだから、出席は良いとしても、もう少し、日本独自の考えを述べるべきであったと思います。例えば、「戦争を早期に止めるべく、もっと、外交的に努力すべきだ」とか、述べるべきではなかったでしょうか。

 岸田首相が、満面笑みを浮かべてNATOメンバーと握手している場面などを見れば、プーチンでなくとも、サハリン2の施設を無償没収したくなると思います。

 G7では得意になって、追加経済制裁として、金のロシアからの輸入の禁止を発表しました。ロシアからサハリン2の報復を受けることは、考えていなかったのかと思います。

 おそらく次は、サハリン1の施設の没収だと思います。

 雨あがりの朝など、ミミズが道路を渡ろうとしているところをよく見かけることがありますが、ミミズは、道路幅がどのくらいあるか、道路の先に何があるのか、何を目的に道路を渡ろうとしているのか、全く、考えていないと思います。それと何か、岸田首相の行動は似ているように思いますが、如何でしょうか。

 それでも六〇%も国民の支持率があるのだから、良し(善)とすべきでしょうか。

②バイデンは、大統領就任式で、初めて、台湾代表を呼びました。

 台湾有事問題が、本格的に日米首脳声明で謳われたのは、昨年四月の菅首相の時でした。

 一連のバイデンの行動を見ると、バイデンは、武器をいかに売るかを考えながら行動していると考えれば納得が出来ます。

 ウィキペディアによれば、アメリカの軍事産業に従事している人数は約一、〇〇〇万人で、子供・老人などを除く就労人口の六%は、何らかの形で、軍事産業に従事しているとのことなので、アメリカではバイデンの行動は正当化できると思います。

 逆に言えば、この軍事産業が存在する限り、一〇年間に一度は大きな戦争を起こす必要性があり、戦争は無くならないのでしょう。少なくとも、緊張を高め、軍事産業の育成を図る必要があるのでしょう。全面的な銃規制が出来ないのと同じ理屈だと思います。

 日本は、完全に、バイデンの尻馬に乗っかってはしゃいでいると私は思います。

 今年の一一月八日(?)のアメリカの中間選挙で、民主党が大負けした場合、アメリカはどちらの方向へ向かうか分かりません。このまま尻馬に乗っかっていて良いのでしょうか。

③情報によれば、台湾では、日本ほど、台湾国民は、台湾有事の可能性を感じていないようです。

 もし、そうなら、「日本は、防衛費を二倍にしなければならない」など、バイデン一人に踊らされていることになります。踊らないと、反アメリカ的と見なされ、何か事件を起こされ、潰されるので、子分である以上、ある程度は、仕方ないと私も思いますが。

2 日本における情報

 日本に入ってくる情報は、ほとんど、アメリカの翻訳機に掛けられ、アメリカ側にとって不要なものは削除され、情報操作されているように感じます。具体例を挙げます。

①日本人のほとんどの人は、北朝鮮は孤立していると思っていますが、東アジア・東南アジアで、北朝鮮と国交のない国は日本だけです。(韓国は戦争中なので国交がないことは当然。日本が台湾と国交がないのと同じ理由で、台湾と北朝鮮は国交がないのは当然であるので除外しました。)

 英国も国交があります。国連加盟国の八五%の国々と国交があります。

 何故、日本人は勘違いしているのでしょう。

②日本では、西側を「国際社会」と呼び、この国際社会が世界を代表しているような報道の仕方です。従って、「国際社会による経済制裁」などと言えば、世界の大多数の国々がロシアに対して経済制裁を行っているように勘違いします。

 しかし、前述の通り、ロシアが非友好国と指定している国は四八ヶ国に過ぎず、世界の人口比で行けば、一五%くらいと思われます。

 日本は、日米安保条約で、硬く、アメリカに守られている同盟国であり(と言われており)、一五%側にいるので、八五%側の情報がほとんど入って来ないので、仕方がないのでしょう。

 しかし、八五%側の国々の国民は、別の情報を得ているはずです。

 我々も、八五%側の情報を集める努力をし、両方を比べて判断すべきと私は思います。

 ご存知の通りですが、六月一一日、ロシア下院議長は、G7に対抗して、新G8(中国、インド、ロシア、インドネシア、ブラジル、トルコ、メキシコ、イラン)を提案しました。

 二〇二一年のGDP比較では、新G8:G7は、40:60くらいで、新G8は負けていますが、購買力平価ベースでは、55:45で、新G8が勝っています。

 いずれ、中国とインドの伸びしろが大きいので、GDP(ドルベース)でもG7が負けることになると思います。

③ウクライナからのプロパガンダ(フェークニュース)は、日本では多くを見ることが出来ますが、ロシアからのプロパガンダは、日本では、ほとんど見られません。誰が、コントロールしているのでしょう。

 情報によれば、ウクライナには、一四〇社くらいの電通のような会社が入り込んで、CG(Computer Graphic)で、競ってプロパガンダを作っているとのことです。

 戦場で老婆が泣いている風景、壊れた建物の前で、ダンスを踊っている風景など、簡単に作れるようです。

 私も、半分以上はプロパガンダと思いながら、TVを見ていますが、傷ついた子供の場面などが出てくると、つい可哀そうになります。不思議です。

(映画は、ドキュメンタリーを除けは、大変危険な場面でも、全部、舞台を設定して、周りにカメラマンが大勢いて撮影していることは分かっているのですが、時に、悲しんだり、笑ったりするのと似ているのでしょう。)

④日本のTVの解説者が、まともな解説をしていないことも原因と私は思います。

 政治家の解説はある程度国民を誘導しなければならない立場なので、ご自分のお考えを述べるのは良いとしても、学者は、例えば、一〇ある情報を全部開示して、その上で、ご自分の意見を述べるべきなのに、都合の良い五つの情報だけを開示して解説しているのは、学者の風上にも置けないと思います。

⑤「ロシアがデフォルトを起こした。今後、ロシアは、おカネを借り難くなる」と報道されています。

 実際、借り難くなるのだと思いますが、一方で、「ロシアのデフォルトのため、クロス・デフォルト条項などで、ロシア国債を買っている企業は一遍に厳しくなる」ということは解説されません。SWIFTを止めたり、ロシアがデフォルトを起こすように仕向けていることはほとんど報道されません。

 ルーブルが一ドル=百五十ルーブルになった時は、報道が大きかったのですが、現在、一ドル=五五ルーブルくらいで、開戦前の一ドル=八〇ルーブルよりルーブル高になっていますが、報道が小さいです。

 日本円はドルに対し円安ですから、ルーブルに比べれば、ものすごい円安です。日本とロシアと、どちらが多く困っているのか、ほとんど、報道されません。

⑥アゾフ連隊は、二〇一四年、外人部隊が中心で結成された、いわば、テロ組織と私は理解しています。事実、日本の公安調査庁のテロリストにも載っていましたが、いつのまに削除されました。TVの解説者は、このことについて何も説明していません。

 日本国民は、アゾフ連隊は正式なウクライナ軍と思っている人が多いです。

3 ゼレンスキーの政策

 ミンスク合意は、ウクライナにとって屈辱的な合意であることは理解できますが、その合意をゼレンスキー大統領が遵守し、アゾフ連隊の攻撃から、東側二州の国民を守ってやれば、今回の戦争(紛争?)は起きなかったと思われます。

 ゼレンスキー大統領一人の決定ではなく、バイデンの後押しがあったと考えられますが、屈辱的であっても、ミンスク合意を守り、国民の生命と財産を守ることの方が大切ではなかったかと私は思います。

 交通事故で、轢かれて死んだ場合、運転手が悪いと判決が出ても、死んだ家族は生き返りません。交通事故が起こらないように、注意する方が先だと私は思います。

 仮に、尖閣諸島を中国に占領されたら、中国に宣戦布告して、日本は、戦争に突入するべきか。戦争になれば、何千人、何万人の犠牲者が出る可能性が高いが、人の命より、領土の方が大切と考えるべきか。現在の日本人の命より、将来の日本人のために、現在の日本人の命を懸けても戦うべきか、難しい哲学の問題となり、答えが分かりません。

 昔、タイの王様は、北からフランスが攻めてきた時、戦わずして、現在のラオスのあたりをフランスに割譲し、南から英国が攻めてきた時は、やはり、南部のハジャイの南を割譲したと聞いたことがあります。

 ラオスは、少なくともラオスの南部(ビエンチャン等)はタイ語なので、そうだったのでしょう。タイの王様は国民の命を優先したと称えられていました。

 なお、六月二九日、日米韓首脳会議がマドリッドで開かれました。外務省のホームページを見ると、北朝鮮問題について話し合われたことになっていますが、本当かと思います。

 バイデンのニッタリした顔から、バイデンは、「ウクライナは頑張って、ロシアと戦ってくれている。今度は、君達の番だ。日韓協力して、中国と戦ってくれ。支援はする」と心で言ったのではないかと思いました。

4 日米安保条約

 この条約は、一九六〇年一月一九日に調印され、六月二三日批准されています。

 第一〇条によれば、日本が国連のメンバーとして一人前になるまで、この条約は続けられ、その期間を、一応、一〇年間と想定し、その後は、いずれか一方が通知することによって、その通知から一年後に条約を終結することになっています。

 第六条の補足協定である地位協定を含め、六二年間、この条約の文言は、一切変更もなく、続いているということは、双方にとって、余程、都合が良い条約であるか、未だ、日本が一人前として認められないためでしょう。

 ただ、二〇〇五年の2+2で、「極東における平和および安全」が「世界における平和及び安全」に運用面で変わっています。

 二〇一五年に成立の「平和安全法」の解釈の如何で、日本は、アメリカがメンバーであるNATOへの武力支援にまで、駆り出されることを危惧致します。

 現実として、今、直ぐには、この条約の終結は出来ませんが、せめて、地位協定を第二七条に基づき、少しでも改訂して行かねば、いつまでも、アメリカの子分から抜け出すことは出来ず、引いては、GDPにまで影響すると私は考えます。

 日米地位協定には、禁止条項が書かれてないように読めます。書かれてないことは、第二五条の合同委員会の同意が必要なのでしょうが、実際は、すべて、OKで、台湾有事が起これば、日本の基地から戦場へ戦闘機が飛び立つことになります。

 正に、アメリカにとって、日本は不沈空母なのでしょう。

 アメリカは、一〇〇以上の各国と地位協定を結んでいると聞いておりますが、日米地位協定はゆるゆるで、世界の中でも珍しいと理解しています。もし、日本の基地からの直接の攻撃が禁止されていれば、台湾有事となっても、日本は、もう少し、客観的になれるはずです。

 アメリカと対等に話し合うためには、インドなどを見習って、アメリカを牽制できる力をつけなければならないと思います。さもなければ、このまま、後退途上国で終わるのではないでしょうか。

●自衛隊は、飛行機一機を飛ばすのにも、アメリカにその基本ソフトウェアを握られ開示されず、また、最新版より一世代前の古いバージョンが搭載されていると聞きました。米軍と自衛隊で使う兵器は同じ機種ですが、内容は同等でないとのこと。

●無人偵察機「グローバルホーク」で収集したデーターは、アメリカ側で解析し、アメリカ側に不都合でないものだけが、自衛隊へ開示されると聞きました。 

●アメリカからの武器しか購入できず、しかも、購入者側が選ぶのではなく、FMS協定により、有償で供与され、防衛省に書類が回ってきた時は、反対は出来ず、印を押すしかないとのことも聞きました。

●FMS協定は、実質的に値段も納期もない一方的に有償によるアメリカからの供与であり、有難く受けなければならないと聞きました。

●武器は買わされるが、砲弾は、限定されて購入させられており、本格戦争になれば、一週間も持たないという話も聞きました。

 日本は、日米安保条約に頼っていて、本当に大丈夫でしょうか。

5 憲法改正

 日本国憲法はGHQに押し付けられたものなので、押し付けられた感を払拭する必要があるとは思いますが、問題の第九条だけは、天皇の命と引き換えに、幣原喜重郎がマッカーサーと三時間密談して、入れたものであることが定説になっています。つまり、日本側の提案です。

 その第九条が障害で、日米安保条約が改訂できないとの主張もありますが、日米安保条約に明記されているように、個別的又は集団的自衛の固有の権利を日本は持っており、第九条の改正なくしても、自主外交が可能な独立国になることが出来ると私は考えています。

 だからと言って、第九条の改定に反対しているわけではありませんが、アメリカの従属的立場のまま、改正すると、アメリカの戦争に全部協力して自衛隊がどこにでも出て行くような憲法になりかねません。憲法は本来政治家を縛るためのものなのに、国民を縛る憲法になってしまう危険もあります。自主独立のため憲法を変えようとして、頑張った結果、よりアメリカに従属する結果になったなんて笑えない話です。

 自衛隊を他国に派遣する場合、その受け入れ国と地位協定を結び、裁判権は、派遣国側にあることが一般的ですが、その担保として、派遣国側に、軍事法廷が存在するという前提があると思います。日本の場合は、このような法整備がないまま、自衛隊は派遣されており、細かなことですが、法整備が必要と思います。

 第九条の改正より先に、解釈で運用している条項や、意味が不明な条項を、普通の日本人が分かる日本語に、改正されるべきと思います。

 例えば、「衆議院の解散は、首相の専権事項である」などは、どこに書かれているのでしょう。第六九条、第七条解散と言われますが、そこを何回読んでも書かれていません。

 大体、内閣総理大臣は、法律の範囲で、国の運営を委嘱されている立場で、内閣は、国会に対し責任を負っている(国民に対してではない)立場(第六六条)なのに、委嘱した国会を解散できるというのは理論的にもおかしいですが、それでいいなら、憲法に明記されるべきだと思います。

以上

【月刊レコンキスタ令和四年八月】