鼎談参加者

木村三浩(きむら・みつひろ)
昭和31年生まれ、一水会代表。塾員有志でつくる慶應義塾大学戦没者追悼会実行委員。

坪内隆彦(つぼうち・たかひこ)
昭和40年生まれ、慶應義塾大学法学部卒。著書『アジア英雄伝』『維新と興亜に駆けた日本人』『GHQが恐れた崎門学』『木村武雄の日中国交正常化』等。

小野耕資(おの・こうすけ)
昭和60年生まれ、青山学院大学大学院博士前期課程(史学専攻)修了。著書『筆一本で権力と闘いつづけた男 陸羯南』『資本主義の超克』『大和魂の精神史』『読んでおきたい日本の「宗教書」』等。

概要

 昨年頃からか、埼玉県の川口市・蕨市に住む在日クルド人について、危険な車輛運転、暴動、ゴミの放置、公園やコンビニ前での屯(たむ)ろなどの迷惑行為によって地域社会への脅威を与えているとして、主にツイッター(X)などのSNS上で批判が巻き起こっている。

 だが、そもそもそうした「迷惑行為」の告発にどれほどの信憑性があるというのか。愛国・民族派として、どのように事実を見定め、対処するべきか。

 今回は、「対米自立」「アジア連帯」の志を同じくし、ともに埼玉県内で実地視察も行ったジャーナリストの坪内隆彦氏、小野耕資氏とともに鼎談を行い、率直に語り合った。本紙読者に問題意識を共有していただきたい。 (聞き手・海野学編集委員)

「クルド人問題」の実態とは

木村 今日は、昨今ネットで騒がれている「クルド人問題」について、そもそもそんな問題は存在しているのか、我々はどう見ているのか、何度か現地も見てきていますので、その報告も兼ねてお話ししていきたいです。私は、カッコつきの「クルド人問題」というのは、あるジャーナリストが承認欲求でデマを振りまきながらクルド人を中傷し、焚きつけているもので、実態にそぐうものではないと思います。私自身、川口市内に友人が多くいることもあり、同地には以前から何度も行って、話は聞いていましたが、一水会や愛国派有志としては、まず昨年十二月八日に日野興作、塩入大輔、海野学の各氏ら、それから今日お話ししている坪内さん、小野さんと一緒に現地に足を運び、日本人とクルド人が共によりよい地域社会を築いていけるために、クルド人との意見交換会、ビラ撒きを行いました。また、本年一月二十一日には、「日本クルド交流連絡会」を正式に発足しました。現地の在日クルド人は約二千人という話ですが、ネットでは彼らが「自治共和国」の発足を目論んでいるなんて荒唐無稽な話も流布している。「異質なものはなんでも排除」というのは、現代社会の病理ではないかとさえ思います。コンビニの前に屯ろという程度の話でも、クルド人は自主的に行政と一緒にパトロールを行ってマナー遵守を同胞に呼びかけ、共生の道を模索している。そういう地道な努力を評価しなければいけないと思っているときに、そういえば坪内さんも川口市在住だったということを思い出し、これを奇貨として、建設的な活動を呼びかけたいと考えたのです。

坪内 お声掛け頂き、感謝しております。まずなにより、物事というのは直接顔を合わせ、忌憚なく腹を割って話し合うことが大切だと思いますが、ネットで一方的な情報が流れると、それをそのまま信じてしまう人がいるのです。現地の状況を自分の目で見るということがなければいけません。その点、私は長年川口市に住んでおりますが、たしかに、車で大きな音楽をかけながら走っているクルド人らしき人を目撃したことはありますし、コンビニの前にクルド人らしき人が集まっている例もあるにはありました。クルド人のごく一部に問題のある人がいるということはたしかにあるでしょうが、それも徐々に改善されてきています。問題ある人がいたところで、日本社会の価値観からいって、具体的にどういう問題があるのか指摘し、本人たちにも理解してもらうことが重要なのではないでしょうか。一部の問題をもって全体のせいにするのは間違いだと思います。人種や民族で一括りにして差別の対象にするのは違います。

木村 区別と差別はやはり違いますね。蔑視的に中傷しても、問題は進展しません。彼らは姿格好や習慣は違うところもありますが、直接言わずに、ネットで批判するのは卑怯と言うしかない。何年も前の動画・写真を何回も蒸し返したり、「日本のルールを守らない」と自警団的な批判をする連中がいる。気になるなら注意して直してもらうため、まずは自治会に相談するなどすればいい。だが、そうはしない。彼らの目的は一体どこにあるのかと言いたい。

坪内 全く同感です。差別、ヘイトスピーチには反対します。

木村 カッコつきの「クルド人問題」というのは、最初にいったジャーナリストが書いて拡散しているのですが、それに対して自民党の和田政宗参議院議員はよくやっていると思う。彼もネトウヨに集中攻撃されましたが、別に違法行為の肯定なんてしていない。法に基づいてやるよう、筋論を通しているだけです。ネトウヨはそれだけで「テロリスト」「PKK」の味方かと、妄想、虚言の域の批判を行っている。この問題に限らず、日本のネトウヨは「長いものに巻かれろ」の親米派で弱い者いじめばかりしている者が多い気がするのです。日本にあったはずの、温かみ、寛容性、大らかさがない。それがちょっとした違いをあげつらう、チェック魔ばかりになってしまった。社会の地盤沈下によって、自信を喪失しているのだろうか。

坪内 保守派、愛国派を名乗りながら、他人への敵意、蔑視をむき出しにし、異質なものを標的にしている人たちが少なくないことを懸念しています。

小野 いまの移民政策自体は、財界の「低賃金労働者がほしい」という意向に基づき実行されているものであり、日本人の賃金低下にも結び付くものなので、私は反対の立場です。しかしヘイトスピーチで外国人に応じるのは間違っているということは、私も同感です。

背景には何が?

木村 こんな卑怯なナショナリズムが流行るようになったのは、ここ二~三十年前からの現象でしょうかね。ソビエト崩壊によって血を流すことなく冷戦に「勝利」し、一方で未解決の拉致問題のクローズアップによって、「大東国」の理念なき朝鮮併合の「加害者」という意識が、「被害者」へと転換していったという経緯があります。その転換の中で、過去への反省、過去からの教訓というものは活かされていかない。お気楽な嫌韓、反中ばかりが流行りますね。

海野 二十年前から十年前のネット右翼の主流は嫌韓・反中でした。それがこの頃トーンダウンしてきて、なぜか反クルドに向かっているという側面もあると思います。日韓首脳が融和モードに急旋回し、それでネトウヨが敵を見失っているのかも知れません。でも、敵を探して叩き続けるだけのネット投稿が、日本を良くすることには結びつかないでしょう。

小野 私自身「きれいごと保守」と揶揄されたこともありますが、ヘイトスピーチをしている人からすれば、外国人に対して自分たちが最前線で闘っているんだ、邪魔をするなという心情なのでしょう。しかし、それは歪んだ正義感で、実態を反映したものですらないと思います。

坪内 川口市は差別解消、共生社会を推進しています。約六十万人の川口市民のうち、四万人、実に六・七パーセントを外国人が占めています。しかし、クルド人問題のネットでの騒がれ方からすれば意外でしょうが、そのうち一番多いのは中国人です。人数でいえばベトナム、フィリピン、韓国、そしてトルコ国籍者という順番になりますかね。日本人も外国人が多い環境に慣れていますし、外国人も、長年住んでいる同胞から、日本文化を尊重することを学んでいる。上手くいっているんです。行政も双方に呼びかけを行い、「多文化ふれあいフェスタ」などのイベントを開催しています。十四か国の食べ物が出品される、賑やかなイベントです。いい方向にいっているはずなのに、一部のクルド人の問題をあげつらうことによって、日本人と外国人の間に対立構造が作られてしまう。そのようなことを望んでいる川口市民はいないと思います。

木村 かつて在特会が新大久保で下品なデモをやっていた。今ではそのメンバーは日本第一党に移っていて、埼玉にも押しかけているが、それが一体日本のためになるのか?というと大いに疑問だ。

坪内 お互いに挑発し合い、反目するのではなく、クルド人にも日本文化を学んでほしいし、日本人もクルドについて学ばなければいけませんね。まずは相互理解の努力が必要でしょう。

大アジア主義の本旨を

木村 坪内さんも小野さんも愛国者であり、かつアジア主義者なんですから、思想転換の戦いに入らなければいけないね。

小野 私がいつも心に留めているのは、戦前のアジア主義者で拓殖大学一期生の田中逸平の発想です。田中逸平は、要約すると以下のようなことを述べています。

「大アジア主義の『大』とは領土の大きさのことではない。道義の大きさ、尊さを以ていうのである。西洋文明が押し寄せることで、智に偏し物欲が人を苦しませている。大道は廃れんとする中、大アジア主義を問うときが来た。大アジア主義はアジア諸国の政治的外交的軍事的連帯でも、白人に対する人種的闘争でもなく、大道を求め、それぞれの文化で培った伝統的思想の覚醒に努めるべきだ」というものです。簡単に言ってしまえば、日本人は日本人らしく、クルド人はクルド人らしく、それぞれの文化を尊重したうえで共存するのがアジア主義の理想なのです。

海野 レコンキスタでも以前天木直人さんが鈴木天眼について連載しており、読んで勉強になりました。そうした道義的アジア主義者たちの顕彰が必要ですね。

坪内 アジア主義を唱えた愛国派の大川周明は、アジア諸国の人たちがそれぞれの民族精神を根底に置いて本領を発揮することを期待していましたが、同時に彼は日本人が日本精神を根底に置いて本物の日本人として生きるべきであると戒めていました。これは小野さんが紹介してくれた田中逸平にも共通する姿勢です。ところが、現在の日本の「愛国派」の一部は、現在の日本・日本人の状況を謙虚に顧みることなく、敵を攻撃することだけにエネルギーを注いでいるように感じています。

 ところで、在日クルド人たちがPKKの旗とともに写真におさまっていた、などとネットに書かれていますが、この問題はどうなんでしょうね。

※PKK=クルド労働者党。トルコ国内で武装闘争を行っており、同国政府は日本クルド文化協会を「テロ組織支援者」に認定したが、一方で日本の公安調査庁は昨年版の「国際テロリズム要覧」で同党を「テロ組織」から除外した。

木村 トルコ当局は我々のクルド支援に疑問を持つだろうが、クルド人のアイデンティティもある。双方の主張を冷静に見なければいけないと思います。トルコ人の自決権もあればクルド人の自決権もあるはずです。ただ、トルコ国内の政治課題について、我々は内政干渉のようなことは言いませんよ。しかし日本国内においては、トルコ政権の意向も汲みつつ、日本人として、冷静に人道に基いて判断しなければいけない。

坪内 スウェーデンは人道的な立場から多数のクルド人難民を受け入れてきました。ところが、トルコ政府はスウェーデンがPKKの巨大な拠点になっていると認識しています。トルコがスウェーデンのNATO加盟に抵抗した理由もそこにあります。トルコにはトルコの事情があることは理解できますが、日本国内に住む日本人として、一方的にどちらかに過剰に肩入れするというわけにはいかないでしょう。

 クルド人難民で思い出すのは、国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子さんのことです。湾岸戦争が勃発した一九九一年、イラクのクルド人が武装蜂起し、制圧しようとするイラク軍から逃れるため、百八十万人のクルド人がイランやトルコの国境地帯に逃れました。そのうち四十万人のクルド人がトルコの国境に向かって避難しましたが、トルコ政府は入国を認めませんでした。当時、国内避難民の保護は国連難民高等弁務官事務(UNHCR)の任務ではありませんでしたが、緒方さんは人道的視点から彼らを保護することを決断したのです。翌一九九二年の〈皇后陛下のお誕生日に際し〉で、「この一年で印象深かったことは何ですか」と問われた皇后陛下(現在の上皇后陛下)は、「緒方貞子さんの難民高等弁務官のお仕事」とお答えになりました。

木村 我々一水会は、トルコの愛国者政党「祖国党」とも関係を構築しています。トルコはトルコで、エルドアン大統領が「イスラエルこそテロ国家であり、ハマスは自由の戦士だ」と筋を通していますが、西洋に対抗しロシアとも協力関係を維持するなど、西側とは異なる独自の存在感と矜持がある国です。また、アメリカがクルド問題に介入し利用しているという側面もあるでしょう。「第二のイスラエル」としてのクルドにしてはいけないでしょうね。日本は、あるいは日本の政治団体の一つとして、この問題にどんな答えを出すか。色々考えましたが、蔑視、敵意、差別というのは弱い者いじめでしかありませんね。まず対話をしなければいけない。クルド問題をネットでシェアしているのはネトウヨが多い。彼らは国際社会における日本のあり方について、オスプレイ墜落や、戦後体制そのものには踏み込まないですね。ナショナリストがアメリカには文句を言わないままでは、卑怯者の島になってしまうでしょう。

海野 私もSNSを日常的に利用しますが、ネットは人と人を結びつけるという機能が強すぎるのかも知れませんね。いい面もあれば悪い面もあります。また、「エコーチェンバー」の中でインフルエンサーの言っていることを簡単にシェアできてしまうので、受け売りばかりで自分の頭で考えるということがなくなるのかも知れません。

木村 クルド人は強制送還されるとトルコに迫害される可能性があるんですよ。難民法の改正により、審査が短年になりました。日本の行政は、法律を守りながら、住みよい社会を作ろうと冷静に呼びかけているのだから、交流連絡会も民間からそれを後押しできないかと考えます。

現場主義、実践躬行でこそ

坪内 私はかれこれ三十年以上川口市に住んでいますが、恐怖など一度も感じたことはないんですよ。そもそも不良少年なんて、クルド人に限った話ではなく、日本人を含めあらゆる民族に存在するものですからね。クルド人が公園やコンビニで屯ろしていることを問題視する人がいますが、屯ろするのはむしろ、彼らの良き文化ではないかとさえ思いますよ。家族や友人とくつろいだ時間を過ごしているだけなんです。それはかつて日本でも見られた光景ですよね。蕨周辺に住んでいるクルド人を見てつくづく感じるのは、彼らが家族を大切にしていることです。スーパーに買い物に行く際にも、家族五、六人で歩いている様子をよく見かけます。高齢のクルド人女性が孫をベビーカーに載せ、家族とともに歩く様子ですね。これもまた、かつての日本にあったであろう、微笑ましい光景です。色々国内問題もあるのでしょうが、トルコ政府のいう「テロ組織」という物騒な印象は、正直彼らから受けることはありません。

小野 木村代表、坪内さん、海野さんたちと川口の夜のパトロールに同行しましたが、まったくほかの地域と変わらない平穏なものでした。

 実はそれはデータでも裏付けられているんですね。一橋大学の橋本直子准教授が紹介していましたが、川口市広報のデータでは、平成十六年からの二十年間で、刑法犯認知件数は四分の一以下にまで激減しているんです。いかにネトウヨの言っている「治安の悪化」が実態と乖離しているかですね。

木村 多少のリップサービスも含まれているかも知れないけど、在日クルド人たちには、「日本は第二の故郷」と言ってくれているんです。外国人には、「日本が大好きだ」と、国内外で言ってくれる親日外国人になってもらえばいいんですよ。それが愛国者の本当の使命・任務なのではないかと思います。日本の愛国・民族派の真のオピニオンを我々は作らなければいけない。ポピュリズムではいけないですよ。

坪内 わかりやすい敵を短絡的に叩いて人気をとる政治家が、これからも出てくるでしょう。本来の保守・右派のあるべき姿を示して、ポピュリズムに対峙していかなければいけませんね。

小野 坪内編集長と一緒に手掛けているオピニオン誌『維新と興亜』では、「宗教問題」から『ルポ 日本の土葬』を出版した鈴木貫太郎さんにインタビューしたことがありました。これは大分県日出町でイスラム教徒が土葬墓地をつくろうとしている問題についてルポタージュしたものです。隣の別府市で立命館アジア太平洋大学が多国籍の学生を受け入れ、別府市と連携して外国人にとって住みやすい街を目指しましたが、別府市は「多文化共生」の美名だけで、墓地建設など、実態に迫った課題は田舎の日出町に押し付けた問題があるといいます。綺麗ごとと実態がかけ離れているんですね。

 現代の日本は、労働力不足から外国人を受け入れるということをやり続けてきました。一方で文化の違う外国出身者が日本に生き、生活し、死んでいくという現実を見たうえで地元とどう折り合いをつけていくかは、各地で地元住民との相互理解の元進められるべきものと思います。それを抜きにしたリベラル的な薄甘い「多文化共生」にも違和感がありますが、ヘイトで応じるのは論外です。

 先ほど、海野さんが田中逸平や鈴木天眼などの道義的アジア主義者の顕彰をと言ってくれました。実践躬行で、現代日本にアジア主義を強く訴えてこそ、彼らの本当の顕彰になるでしょうね。

木村 そう。自我作古(我より古をなす)という心意気が、なにより大事だ。(了)