二月二十一日、レコンキスタ編集部は木村代表と共に、シリア・アラブ共和国大使館を表敬訪問し、シリアにおける地震の死傷者の方々にお悔みとお見舞いを申し上げ、現地の状況についてナジブ・エルジ代理大使から伺いました。
シリアは震災以前から多くの国難に直面していました。平成二十二年の「アラブの春」運動を発端とした内戦は終わりが見えず、アサド政権の奮闘もあって国土の七割ほどを恢復したものの、依然としてISILやアル=ヌスラ戦線などの反政府組織との戦いは続いています。シリア北部の多くはトルコや西側諸国が支援する反政府組織の占領下にあり、そこに米国(と米国に随従する国々)による経済制裁が加わり、シリアの民を困窮させている現状がありました。
今回の震災はそんな状態にあるシリアを直撃しました。マグニチュード七を超える大地震は平時の国家でも由々しき事態だというのに、それがシリアのような状況にある国ならばどれだけの被害を及ぼすか。地震が直撃したシリア北部の都市群のインフラの多くは、長年の戦いにより既に傷つき、地盤は反政府組織が掘ったトンネルにより脆弱になってしまっており、地震の被害は拡大しました。倒壊を免れた建物でさえ、余震による被害を免れるために住民を避難させるほかなく、住む場所を失った民は少なくありません。また、被災地への支援も反政府組織占領下の地域では難航しており、経済制裁のために、国外から寄付を募ることもままならない状態です。日本においても、募金に関する問い合わせは大使館に殺到しているものの、日本において銀行口座を開設することすら許されていないシリア・アラブ共和国大使館にはそれを受け取る術がないのです。
今回のシリアの状況を悪化させているのは内戦や経済制裁だけではありません。シリアについて報じる欧米のメディアと、その情報を何の疑問も無しに垂れ流す日本のメディアにも責任はあるでしょう。多くのマスコミはトルコにおける被害については大々的に報道する一方、シリアに関してはまったく言及しないか、被害を最小化するような表現を用いています。また、酷いものではシリアへの支援はアサド政権を援助することになってしまうので控えるべきだと言う専門家までいます。無論、今回のトルコも大きな被害を受けているのでそれを報道するのが悪いと言っているわけではありません。ただ、シリアも同じように取り上げ、支援を募るべきではないでしょうか。
エルジ代理大使は、今回の震災を「政治の問題ではなく人道の問題ではないのか」と我々に語っていました。西側諸国は普段はアサド政権を非人道的と批判しながら、いざ有事となれば自分たちに都合の良い筋書きを作るために、シリア国民をいとも簡単に見捨てています。このダブルスタンダードにはいかがなものでしょうか。
「我々はあなた方にシリアのプロパガンダをしてほしいのではない。ただシリアにおける震災の被害について、世界に真実を知らせてほしいだけだ」
エルジ代理大使は、切実に語っていました。我々は国家間の反目や同盟関係にとらわれず、しかるべき支援を行い、一国も早くシリアがこの悲劇から立ち直れるよう、全力を尽くすべきでしょう。
また、エルジ代理大使は、上述の理由からまともに支援を受け付けられない状況にある大使館に対して、現金の入った封筒を直接郵便受けに入れていく日本人がたしかに存在することに感謝の念を延べ、「ここに侍の魂があることを感じた」と仰っていました。
このような国難を前に失われた命や民の苦しみを想い、深い悲しみを見せながらも、エルジ代理大使の態度は決して絶望に打ちひしがれたものではありませんでした。
「我々には民の支持がある。だからこそ世界を敵に回してもこれまでやってこれたのだ」
そう熱弁するエルジ大使の姿は燦然としており、胸に突き刺さりました。これが真の民意というものでしょう。弊会は一刻も早くシリアの復興が進むことを願いつつ、シリアの状況について引き続き正確な情報の把握と発信を続けていきます。