一一月二四日、三島·森田両烈士追悼恢弘祭に参列した。特別講演の講師は前田日明氏だった。僕らの少年時代、前田氏は、新日本プロレス、UWFで名を馳せた大ヒーロー。また前田氏は、凄い勉強家、読書家であることは有名だ。

 講演では、現代日本社会の問題点を鋭く突きながら、警鐘を鳴らされた。大変学ぶべきことが多くある内容であった。

 前田氏の訴えのなかで最も、心に残ったのが「農業をやりたい若者が居ても、なかなかできない。政府はもっと補助金を出すべきだ」。農業や林業など第一次産業の人手不足解消と人手確保の問題を提起されていた。小生が日頃から感じていたことだった。

若い人が農業をやりたいと思っても、補助金のハードルが高くて、なかなか思うよう就農できない。
 昨年四月の某記事で、平成二七年から令和二年までの五年間で農業従事者が約四六万人減となり、一五二万人となったことが報じられていた。また令和三年度の我が国の食料自給率は、三八%だった。

 農業や林業など第一次産業を取り巻く環境は深刻な状況を迎えている。人手不足や若者の人材確保など今、解決しないとこの先、我が国の第一次産業が滅亡するのではないかと危惧してしまう。前田氏が話された一次産業にたいする問題提起に小生は大賛成なのである。

 ここで中里介山の著した『百姓弥之助の話』のなかの「私は国民総耕作と言ったことがある。国民皆兵の如く、われわれは皆農でなくてはならない。一生のうち一、二年間、農業に従事して、その年の国民の主食物を収穫するのである。この方法を繰返してゆけば、日本人は、皆自ら耕した所の米を生涯食べる権利と余裕とを持つことができる。(中略)農は百業の基であり、われらは地を離れて生活できない。土に親しむことは青年修養の一つでもあり、大自然の恩恵とその暴威とを知ることになる。」との言葉を思い出した。

 国民皆兵のように国民皆農制度を構築することは土台無理な話であろう。しかし第一次産業の人材確保のため身分を公務員化して、育成から従事、展開までの過程をサポートする制度を構築することは可能ではないかと考えている。

 公務員化といえば、国営化と結びつけて、旧ソ連のコルホーズ、ソフホーズの制度を思い起こす人も居るであろう。しかし小生の言う第一次産業の公務員化とは、強制集団制度ではなく、あくまで志願制度である。

 例えば、農業に志す若者がいる。二年間、農業学校で学び、三年間、農業従事者のもとで修養して、独立して就農してもらう(すべて国費負担)。農作物を育成していくなかで、自然環境の影響を受ける。もし自然の影響で、農作物に悪影響が出た場合は、国から最低保証がある他、報酬の支給等の生活面も含めて公務員として身分が保証される。こうした新規就農者を公務員制度として構築していくことも一考できるのではないだろうか。

 また農作の土地は、耕作放棄地などを国が買収して公有地としておく。そして就農する者の希望に適した面積の農耕地を無償で貸与する(やめるときは返還する)。これらは大化改新の詔のなかの班田収授法をヒントに現代に適合した日本的制度提案だと考えてほしい。

 我が国の防衛体制の確立も大事だが、食料の確保、食糧安保も必修課題であろう。食物が無ければ、空腹になり、戦うことも、働くこともできない。当たり前のことだが。国家運営並びに国民生活に悪影響を与えてしまう。だからこそ非常時に備えた食料の備蓄及び普段からの就農者を増やし食料自給率を増加させないといけない。外国に依存することはない。自国のことは自国で賄わないといけないのだ。今こそ社稷の原点、衣食住の安定の構築に政治家は取り組まなければならないのだ。

 これまで農業面を例えに論じてきたが、林業も同じである。山々に生い茂る木々の間伐をしないと、森林の水源かん養機能が低くなって、風雪雨害に弱くなる。一例として、土砂崩れが発生しやすくなり、住民に甚大な被害がもたらしてしまうのだ。

 自然循環サイクルが崩壊している現状を改善するため、また森林環境保全のためにも、林業分野の人材確保も急がねばならない。

 第一次産業のどの分野の業も、簡単に習得できないし、難しくも厳しいものがあることは良く承知している。しかし育成から就業までの完全サポート体制を国家で全面的に執り行えば、必ず成功するであろうかと考えている。

「吾が高天原に所御す斎庭の穂を以て、亦吾が兒に御せまつる」(斎庭の稻穂の神勅)

を拝してもわかるように、我が日本民族の生命の根源である稲穂。稲穂=農だともいえよう。また山川草木すべてのものは、神々が産み給いしものである。こうした農や自然環境を保全して、第一次産業を保護運営していくことが、我が日本民族にとってどれだけ大事な事か。民族の生命の根源を守ることに繋がっていくのだといいたい。第一次産業分野での若い人材を確保、育成して、問題点を解消していくための制度を構築して、本気で政治課題として取り組んでいかねばならない。