『文藝春秋』六月号(本年五月十日発売)に「本誌取材班」名義で「朝日襲撃『赤報隊』の正体」と題し、二十五ページにわたる特集記事が掲載された。リード文はこんな調子だ。

「安倍、岸田と『総理』へのテロが相次ぐが、かつて日本中を震撼させた事件があった。『赤報隊』と名乗る犯行グループは朝日新聞阪神支局で記者を射殺、リクルート社や、中曽根、竹下両元総理も標的にした。時効から二〇年──。犯行直後に『逃走資金』を渡し、その後、リクルート社から一億円を受け取ったと証言する人物がいる」

 なお、同記事には弊会の木村三浩代表も取材に応じているほか、一月に亡くなったばかりの鈴木邦男顧問や、一水会の「元会員」としてA・C・D、故・野村秋介大人など、「新右翼」関係者たちが、まるで真犯人を取り巻いているかのように、オドロオドロしく登場する。リード文最後の「証言者」は故・野村大人の盟友の盛田正敏氏(「サム・エンタープライズ」元社長)であると明かされているが、なぜ今頃このような記事を文藝春秋は公開したのか。そもそも、各人物の「証言」がどこまで信用できるというのか。よくよく読みこんでみると、商業誌の下心というものが透けて見えてくる。

 今回、活動歴ウン十年のベテランから二十代の若手まで、一水会の現役会員たち四名が集まって覆面座談会を行い、同記事を徹底検証する。

座談会参加者
A 一水会幹部。活動歴三十五年。
B 一水会中堅幹部。活動歴三十年。
C レコンキスタ編集部員。転向者。
D 一水会若手会員。活動歴十年。

㈠間違いは誰にもあるが…

 文藝春秋(以下、文春)の六月号、読んだかい。鈴木邦男顧問をはじめ、一水会の「元会員」たちが、ずいぶん思わせぶりな「証言」をしていて、文春はあくまで「新右翼」周辺犯行説の線でいくみたいだ。それにしても、今頃なんでこんな記事を載せたんだろう。

 「時効から二十年」の節目だからなんだろうけど、センセーショナルな記事タイトルのわりに、読んでみると新味のある情報なんてほとんどないね。リクルート社から野村秋介さんに資金提供があって、それを「逃走資金」にしたって話には、ちょっとビックリしたけど。

 文春内部の人事異動で幹部が交代する時期だから、記事ネタの「在庫処分一掃セール」をやりたい時期なのかも知れない。それにしても、雑誌業界は今みんな経営が悪いから、紙面の質よりも「売らんかな」でやっているのかな。証言や伝聞情報ばかりで構成されている記事だけど、大して裏取りもしていないし、故人の証言なんて「死人に口なし」で好きに書けちゃうでしょう。

 文藝春秋が赤報隊の特集記事を出したっていうから期待して読んだけど、誤字も結構あるんですね。「一一六号」事件が「一一六〇号」事件になっていたのはただのケアレスミスだろうけど、野村先生の最期の「皇尊弥栄」が「称栄」になっていたのには鼻白んじゃった。これじゃあ野村先生に失礼でしょう。天下の文藝春秋も校正が行き届いてないんですね。間違いは誰にでもあるけど、百年の重みが泣きますよ。

 Dもよくレコンキスタの校正で誤字を読み飛ばしてるじゃない。人のことを言う前に気をつけろよ。

 はぁい、スミマセン。それにしても、文藝春秋の新谷学編集長は本誌記事とは別に、ネットの「編集長ニュースレター」(第二十五回、五月八日公開)ってコラムに「取材に時効はない」という大見得を切ったタイトルの文章をアップしていますから、この特集記事は編集長肝いりなんでしょうけど、平成十四年に警察の捜査ファイルを入手して以来、「二〇年がかりで事件の真相に肉薄できたのではないか、という手応えはあります」と自信たっぷりなんですね。

 実は、「リクルートから野村さんにカネが」という噂は、前から記者の中で話が出ていたようだが、ソースが曖昧だったので、記事にならなかった。詳しい事は分からないけど、今回の記事にしても、昔の記事の焼き直しに過ぎないと、事情通の中では言われている。文春の赤報隊関係の記事は、「○○○○+本誌編集部」のように、これまではジャーナリストやライターが中心に手がけたものが多かったけど、今回記名が「本誌編集部」単体で行われたのも、なんなんだろうね。気になるところ。

 今回の記事は「新右翼」周辺犯行説を採っているけど、思わせぶりな証言ばっかりで、本当に実行者にたどり着くような情報は何もないよね。「短髪の中肉中背」「自衛隊出身の銃マニア」だとか、描写がマンガじみている。

 記事の後半に出てくる、「近年、世を去った暴力団組長」というのもそう。リクルートの江副元会長が「野村氏は自らの逮捕の時期が近づいているから、自害した」って証言していたというけど、死者への冒涜じゃないか。野村さんが朝日を批判していたことは事実だけど、野村さんが実行者に「逃走」資金を渡したという話の信憑性もどうかね。それから、野村秋介大人に我々が色々お世話になり、ご指導頂いたのは事実だけど、文春が書いてるように一水会が「配下」というのはないよね。民族派の言葉ではない。「連帯」とか「戦線」でしょう。

㈡赤報隊と一水会、鈴木邦男

 それにしても、昔の一水会が「気合」が入っていたのは事実なんですよね。阪神支局襲撃事件は生まれる前の話で、私が一水会フォーラムに来るようになったのは鈴木顧問が言論路線に舵を切ってしばらくしてからですから、「肉体言語」で左右が対話をしていた時代の空気感には、ちょっとピンとこないところがあります。木村代表が散弾銃を入手しようとしていたあたりの記述には驚きましたね。

 木村さんが若い頃、武力闘争のために散弾銃入手を目論んでいたのは事実だよ。ただ、交渉した相手が当局の捜査に協力的で、信用に足りず、裏切るんじゃないかと革命的、いや維新的警戒心がはたらいて断念したようだ。

 権力への警戒心が強いに越したことはないですね。変革を志す者が、公安と癒着するなんて考えられないですよ。

 まあ、当時はみんな血気盛んだったよ。野村さんが経団連事件での服役から出所してすぐの「レコンキスタ」が文春の記事でも紹介されているけど、野村さんも鈴木さんも「イケイケドンドン」じゃない。だから、自分たちでも火炎瓶闘争をしていたし、日本民族独立義勇軍(民独)の声明を真っ先にレコンに載せた。鈴木さんもあの頃は「火炎瓶は言論の延長」と言ってはばからなかった。それにしても、民独は昭和五十六年十二月八日に神戸の米領事館へ松明を投げてから、横浜・本牧の米軍住宅放火事件、大阪ソ連領事館への火炎瓶事件、朝日新聞東京・名古屋両本社放火事件と、あれだけ事件を続けて起こしておいて、全部未解決になっているのはやっぱりすごいね。

 民独と赤報隊、さらには阪神支局銃撃犯との関係はいまだに闇の中だけどね。民独の犯行声明と同じ内容の直筆原稿が一水会事務所で見つかって、筆跡鑑定したら半分木村さんで、もう半分が鈴木さんの字だったなんて文春は書いてるけど、それだって当時の一水会の対権力の警戒心だ。「未だ見ぬ同志」の証拠が公安に押さえられて、タイプライターの種類や紙質で足がついたらまずい、これは文春で記事になった通りだ。なぜ鈴木さん・木村さんで分担が半々なのか木村代表に聞いたら、「ひとりで書いていたら声明の原本だと追及されるが、二人でなら書き写したことになるからね」と笑っていたよ。

 それにしても、鈴木顧問が文春の取材班にファミレスで赤報隊について聞かれたときに、にこやかにはぐらかして、「赤報隊が出した七通の犯行声明文だけどね、どれが一番、名文だと思った?」と「逆取材」したなんて書いてるけど、本当に鈴木さんはこんなこと訊いたのかね?

 まあ、鈴木さんはそうやって人をからかって煙に巻くのが好きだったからねえ。ただ、大事な話をしているときは常に目の奥は笑っていなかった。赤報隊の実行者に会ったことがあるって、「夕刻のコペルニクス」などで何回も書いていたよね。
公安対策のブラフも混ぜていただろうから、鈴木さんが書いたことを全部文字通りには受け取れないけど、一度や二度は実行者に会っていた可能性はじゅうぶんにあるかも知れないね。とにかく、思想に対して真剣な人だったことは間違いないよ。そんな鈴木さんが、赤報隊事件以降にテロを完全否定したのは、やはり問題提起として大きいものがあると思う。

 平成十五年の三月十一日に赤報隊の全ての事件が完全時効を迎えたわけだけど、その前日に鈴木顧問・木村代表が一緒に記者会見を開いているね。記者団の前で、三つの提言をしている。一、赤報隊に行動の意義を問う。二、国松元警察庁長官への公開討論への呼び掛け。三、言論の自由を萎縮させない。これは一水会の運動史の中でも、かなり大きかったと思う。

 その一年前には、鈴木顧問が一水会フォーラムで「時効寸前・赤報隊の真相」と題して講演していましたね。当時が一水会結成から約三十年だったけど、そのうち二十年、三分の二が赤報隊のために引っ掻き回されたって、苦笑いしていたのをおぼえている。

 改めて当時の講演録を引っ張り出して読むと、最後に「来年の時効になったら、レコンキスタにだけは声明文が来るかも知れません。初めに来てるんですから、終わりにも来るでしょう。その時は僕の質問に答えてほしい」と語っているのが印象的ですね。でもそれ以降、赤報隊が一水会やレコンに対してコンタクトを取ることはなかった。

 そういえば時効が成立したあと、『週刊新潮』のデマ記事が世間を騒がせていた平成二十一年に、その虚報に対し、抗議して詫び状を取って、野村さんの名誉を守ったんだよね。そんなさなか、NHKの福岡放送局などに対して「赤報隊」を名乗ってカセットボンベを破裂させたりする事件が続いた。阪神支局の事件と実行者が一緒かどうかはわからないけど、時効後も「YP体制の翼賛者を許すな。マスコミへの実力行使も辞さない」という姿勢で、赤報隊を風化させたくない日本人がたしかにいたんだな。

 「わが隊は いつかは権力とのたたかいで 玉砕する。けれども 後には一億の赤報隊が続く」という不気味な声明文は、今でも考えさせられるものがありますね。権力の片棒担ぎみたいなレイシストに引用されていいのかわかりませんが。

㈢「統一教会」隠しのニオイ

 ところで今回の座談会の最初に、文春はあくまで「新右翼」周辺犯行説でいくようだ、とAさんがおっしゃってましたけど、赤報隊事件については、「統一教会」関係者説も昔から根強いですよね。

 そう。有田芳生さんなんかはその線でずっと調べていて、最近でも『週刊SPA!』で記事にしていたよね。ところが今回の文春は旧・統一教会の関与の可能性について、肯定するにせよ否定するにせよ、一言もふれていない。
昨年、安倍元首相襲撃事件からあの教団の存在が大きくクローズアップされて来たから、今回の記事でふれていないのは不自然なくらいだ。文藝春秋と同日に発売された「週刊文春」の方でも、二十七歳の元海上自衛官が山上徹也容疑者と接点を持っていて、「安倍晋三を葬れたことは感無量です」って言っていたなんて記事を載せているけど、やはり証言ベースの眉唾物で、これまた元・統一教会について一言もふれていない。

 七月に解散総選挙が噂される中、自民党に不利になるような紙面は作れない、っていう文藝春秋社の忖度がはたらいているんじゃないかなんて、つい勘ぐってしまうね。(了)