各自思惑ひしめく2022年は、2023年からの岸田首相の黄金期の下敷きだった?

安倍元首相銃殺の衝撃

 まずは二〇二二年を振り返ろう。
 
 何と言っても一番衝撃的だったのは、安倍晋三元首相の暗殺だろう。七月一〇日に投開票された参議院選終盤の七月八日、、奈良県・近鉄大和西大寺駅前で応援演説中だった安倍元首相を、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の宗教二世の山上徹也容疑者が銃殺した。

 元首相が殺されたことに加え、山上容疑者の育った環境が問題となった。幼い時に父親を亡くし、母親は宗教にのめり込んで全財産をつぎ込んでいく。大学進学を諦め、せめて兄と妹のためにと働いていたところ、兄が自殺。逃れられない宿命に恨みは旧統一教会に集中され、深い憎悪が祝辞を寄せる映像に出ていた安倍元首相に向けられた。

 もちろん山上容疑者の犯意には、「自分の行為によって世間を驚かせた」いという歪んだ願望が含まれていたことは否定できない。母親の寄付行為と安倍元首相に因果関係はないからだ。

 しかし山上容疑者の願い通り、世間は宗教問題に注目した。かねてから旧統一教会の霊感商法は社会問題となっていたし、一九九二年には有名人を巻き込んだ合同結婚式問題が噴出。その一般世間とかけはなれた感覚に、好奇心と嫌悪感をよんだのだ。

安倍元首相の死で空白が生じた国政は迷走

 それにしてもいきなり政治の最有力者がいなくなり、いまだその空白を埋められないでいる。安倍元首相が会長を務めていた自民党最大派閥の清和研は、まだ新会長を決めることができないまま。ポスト岸田も擁立できず、政治に緊張感はなくなっている。

 日本維新の会が立憲民主党と第二一〇回臨時国会の期間に〝共闘〟を結んだことも、そのひとつといえるだろう。そもそも日本維新の会は安倍元首相や菅義偉前首相を介して自民党に近く、「与党でもなく野党でもない〝ゆ党〟」と揶揄されていた。

 もちろん立憲民主党との関係は最悪で、「犬猿の仲」と言われたが、日本維新の会が提唱してきた文書交通費の改革など六項目を主張していくことで共闘関係を構築。後に旧統一教会問題など二項目が追加された。

 旧統一教会問題をめぐる悪質商法被害者救済法については、立憲と維新はいち早く法案を作成し、政府与党をリードした。法構成を考えて形式的に閣法にすることに合意したものの、被害者側に立った内容を多く盛り込もうとした。だが、憲法が保障する信教の自由に抵触しかねない微妙な問題も含まれるため、自民党と公明党との四党実務者会議は何度も開催。世間の注目が集まると知ると、旧統一教会との関係についての甘い党内調査でミソを付けた茂木敏充幹事長が、国民民主党と共産党を含めた各党との幹事長会談を開催。通常の国会での委員会を含めて、事実上は三トラックでの審議ということになった。

ポスト岸田をめぐる水面下の戦い

 ここで注目すべきは、四党実務者会談から外れた国民民主党と茂木幹事長の動きだ。国民民主党は立憲・維新案よりも〝中立性〟を担保した独自法案を作成しており、それをベースに国会で審議することを希望していた。そして茂木―玉木ラインで国民民主党案を政府案に反映することを約束。そして「年明けの内閣改造で、玉木代表が岸田内閣に入閣する」との一報を時事通信が配信した。
情報源は国民民主党との関係をテコに、生き残りを図る茂木幹事長というのがもっぱらの噂だ。二〇二一年の衆議院選で甘利明前幹事長が小選挙区で落選したため、幹事長職を辞任。いち早くその後継に名乗りを上げたために茂木氏が幹事長に就任し、総裁選出馬の資格を整えたが、実際のところ、平成研の最大の実力者である青木幹雄元参議院会長はそれに賛同していない。

 青木氏の〝本命〟は小渕優子元経産大臣で、前回の内閣改造の時も小渕氏の入閣を岸田首相に猛烈に推した。なお諸団体との交渉の顔として自民党組織運動本部長を務める小渕氏は、連合の芳野友子会長とも会食を重ねて親しく、麻生太郎副総裁を紹介したりもしている。その関係は立憲民主党の西村智奈美前幹事長よりもずっと濃密で、ある立憲民主党関係者は、「小渕との会食はフレンチだが、西村との会食はお好み焼き。そりゃ小渕に傾倒するはずだ」と皮肉ったほどだ。

 そうした事情を考えれば、茂木幹事長にとって玉木代表と繋がることは、派閥の領袖として生き残る策ともいえるだろう。実際に国民民主党は二〇二二年度の本予算や補正予算で賛成しており、与党入りの意欲が見えなくもない。国民民主党は二〇一八年の結党以来、「対決より解決」を掲げているが、与党入りすることこそ最高の解決力を得ることになるからだ。

国民の犠牲の下で政権延命か?

 さて、二〇二三年の岸田政権はどうなるか。すでに五月に行われる広島サミットで「花道論」も囁かれているが、意外としぶとく生き残るのではないか。というのも、参議院選は二〇二五年七月まで行われず、衆議院も解散されない限り、同年一〇月まで任期が続く。政党の再編成でもない限り、岸田政権は衆参両院で多数を維持できる。

 もっとも政権基盤を盤石とすることは必要だ。だからこそアメリカとの関係は最重視すべきとし、二〇二二年五月にバイデン大統領が来日した時、岸田首相は防衛費増大を口にした。また二一〇〇億円分のトマホーク購入を約束し、「反撃能力」についてはすでに二〇二一年一二月の臨時国会での所信表明で言及。「こうした課題に対し、国民の命と暮らしを守るため、いわゆる敵基地攻撃能力も含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討し、スピード感をもって防衛力を抜本的に強化していきます」と述べている。

 形では対米従属を示した戦後の日本保守政治そのものであるが、国民の負担が全く異なることに留意しなくてはいけない。日本の戦後復興を支えた吉田外交は、軍事負担を軽微にすることで、経済発展を実現したのだ。

 その弟子である池田勇人が創設した宏池会の会長であり、池田と同じ広島出身の岸田首相には、そのような保守本流の姿勢を継承するつもりはないようだ。一二月一六日の会見で日本共産党の志位和夫委員長が述べた「安倍元首相には少なくとも国家観はあったが、岸田首相にあるのは政権の延命だけ」との言葉がその真髄を言い当てている。

 年内に防衛三文書を作成し、防衛費増大について党内の了承を得た岸田首相は、「黄金の三年間」を享受するが、その影で多くの国民が涙を流し、悲鳴を上げているのを忘れてはならない。

筆者プロフィール

安積明子(政治ジャーナリスト)
兵庫県出身。慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。その後に執筆活動に入り、政局情報や選挙情報についてさまざまな媒体に寄稿している。趣味は宝塚観劇やミュージカル鑑賞。月に1度はコンサートに足を運ぶ。