先月二十九日、広島市のHPに掲載されていた劣化ウラン弾に関する記事が一時的に削除され、インターネット上では(イギリスが劣化ウラン弾を使用するチャレンジャー2戦車をウクライナに提供したことを踏まえ)来たるG7サミットに向けてのイギリスへの忖度ではないだろうかという憶測を呼んだ。

 昨年から国益度外視で西側諸国の筋書きに随従する我が国を見れば無理もない反応だろう。元に昨年公安調査庁の「国際テロリズム要覧2021」からアゾフ大隊に関する記述が削除するなど、ウクライナとNATOにとって都合の悪い事実は国民からひた隠しにすることが我が国では常習化しているのだから。 

 件の記事は削除から二日後に再度公開されたが、その内容には気がかりな変更が加えられていた。「化学的毒性により腎臓などを損傷するとともに癌などの放射線障害を引き起します」「土壌などに付着し、半永久的な環境汚染を引き起こします」などの劣化ウラン弾使用による実害に関する記述は削除され「人体や環境への影響が危惧されています」という曖昧な表記に変わっていた。 

 毎日新聞が行った取材によると、広島市平和推進課は複数のメールアドレスからいくつかの点について正確性を欠くなどと指摘を受けたことにより専門家に意見をもらい内容を修正したのだという。

 一体どこからクレームがきて、どんな専門家に相談したのかは不明だが、劣化ウラン弾による二次被害はあくまでも米国が認めていないだけであって、米国が劣化ウラン弾を多用したイラクや旧ユーゴスラビアでは放射能汚染による被害が数多く報告されており、更にはかつて湾岸戦争にて従軍した米国兵の間では癌、白血病、免疫不全などが多発している実態もある。劣化ウラン弾と環境・人体への被害を関連付けるデータは多岐にわたって存在しているにも関わらず「危惧されています」の一言で片づけてしまって良いのだろうか。

 たしかに劣化ウラン弾は核兵器ではない。あくまでも劣化ウランの比重を利用して貫通力や破壊力を高めたものであり、その毒性は副産物にすぎず、核融合を利用した兵器と同列に語れるものではない。しかし、副産物ならば放射能をばら撒いても良いのか。結果として放射能による健康被害や環境汚染が起きているのであれば、厳しい目を向けるのが妥当であろう。放射能が及ぼす壊滅的な被害を目の当たりにした広島市なら尚のことである。

 それにも関わらず、劣化ウラン弾が国際的に話題になっているこのタイミングで、西側諸国に忖度したのか、あるいはロシアの片棒を担いでいると思われたくなかったのか、市はいとも容易く記事を書き換えてしまった。本当にそれが間違った情報を世に広めたくないという考えから来ているのであればまだ理解はできる。しかし編集の理由も、編集するにあたってどのようなファクトチェックがあったかも曖昧な言葉ではぐらかされている現状、とてもそのようには思えない。核廃絶と平和推進の理念は数本のメールでいともたやすく曲げられてしまったのだ。

 この調子では原爆の記憶が遠のくにつれて、反核の理念はおろか、原爆を投下したのが米国であるという事実すら都合よく書き換えられてしまうのではないか。