親日家・尹錫悦大統領の来日

 韓国では政権交代が起こる度に対日姿勢が変化する。国内の政治勢力が保守系vs左派系で二分化されているのが原因だが、昨年5月より対日強硬派の文在寅政権から、対日融和派の尹錫悦(ユンソンニョル)政権に政権が交代した。文政権時代に沈滞していた日韓関係は一挙に急転、改善に向かいつつある。

 尹政権は3月6日、元徴用工への賠償に関して、韓国国内の基金より賠償金を供出させるという「解決案」を提示している。

 韓国内では反対意見も広がっているが、朴振(パクチン)外相は「悪循環を断ち切ることが国益にかなうと考えている」と述べ、「コップの水に例えるなら、コップは半分以上が満たされている」と日本側にボールを投げかけた。

 続いて16日には尹大統領が来日。岸田首相と会談し、10年以上途絶えている日韓首脳の相互訪問「シャトル外交」の復活が合意された。

 岸田首相も韓国を輸出管理の優遇対象国(ホワイト国)への復帰を検討しており、日韓関係は最近になり急速な「雪解け」となっている。

 日韓の急速な接近は米国の意向も影響しているだろう。徴用工問題に関してはバイデン大統領も解決を望んでおり、尹政権が打ち出した解決案を「画期的」と評価している。

 中国との対決姿勢を深める米国にとっては、アジア地域で日韓がいがみ合うのは歓迎しないのだろう。日・米・韓で対中戦線を構築したいという目論見が透けて見えている。

日本の課題・嫌韓論は卒業する時

 だが、近隣諸国との関係が好転するのは悪い事ではない。中国、ロシアとの関係が悪化する中、韓国との関係はせめて良好を維持したいところだ。

 今回、尹大統領が対日融和姿勢を打ち出した事は大いに評価したいところである。

 尹大統領は過去、反日的な発言をした事がない。父親の尹起重(ユンギジュン)氏は延世大学名誉教授であるが、日本語が堪能であり複数の日本人学者とも面識がある知日家だ。

 一橋大学に留学していた時期があるが、この時に息子である尹錫悦氏が、当時東京国立に住んでいた父親を訪ね、一橋大教授の家で一緒に食事をした事もあるという。

 尹大統領は歴代韓国大統領の中でも稀な親日家と言えるだろう。まさに「未来思考の日韓関係」を構築するに打ってつけの人物である。

 だが、日本側には未だに嫌韓感情でしか韓国を見ない者が多い。

 「どうせいつかは反日に転じる」「韓国を信頼してはいけない」との意見が散見されるが、これではとても「未来思考」には辿り着けない。度量のある姿勢とは言えない。

 尹大統領は文在寅政権の時に悪化した日韓関係の改善を大統領就任前より強く提唱していた。

 ならば日本側も、凝り固まった嫌韓思想から抜け出す時ではないか。近隣諸国との関係改善こそが、対米自立、自主独立の第一歩である。

 韓国側が投げかけたボールに、こちらも投げ返していかねばならない。