欧州で三島由起夫再評価
私は日本経済新聞と朝日新聞の二紙を購読している。
二〇二三年一月十一日付の朝日新聞に面白い寄稿があった。見出しは「欧州でいま三島が熱い」。白百合女子大学教授の井上隆史先生の寄稿だ。
「ヨーロッパでは新たな三島由紀夫ブームが起きている。地球人になりすました宇宙人同士の闘いを描く『美しい星』がはじめて英訳され、依頼を受けて危険な仕事を請け負う青年がアジアを舞台とする巨大犯罪に巻き込まれていく『命売ります』もここ数年でフランス語、英語、イタリア語に相次いで訳された。それらは、切腹した現代のサムライという紋切り型の三島像に収まりきらない前衛的なSF小説(中略)として、新鮮な驚きをもって迎えられている」と書かれている。昨年十月から今年一月まで、「日本・ミシマ・そして私」というイベントがパリで開かれたと言う。そこでは、二〇二〇年に公開されたドキュメンタリー映画「三島由紀夫vs東大全共闘」などの三島出演作だけでなく、「三島が好んだ洋画、戦前・戦後の邦画、現代アニメからデジタルゲームに至るまで様々な映像作品」が実際に上映されていたと言う。
三島由紀夫が好んだ映画、アニメ、ゲームというのは一体どういうものなのか興味津々であるが、具体的にどういう作品であるかの情報は日本語でインターネット検索をしても出てこない。ご存じのかたがいらっしゃれば、ぜひ教えて頂けると幸いである。
また、一月十七日の朝日新聞には、七十五歳の写真家・石内都さんの、今年度の朝日賞の受賞が決まったという記事があった。
朝日賞とは、朝日新聞文化財団が実施している事業で、HPによると、「学術、芸術などの分野で傑出した業績をあげ、わが国の文化、社会の発展、向上に多大の貢献をされた個人または団体に贈」られるものということだ。朝日賞を受賞なさったのはめでたいことだが、何よりも、記事で紹介されていた石内さんの作品に痺れた。
石内さんは群馬県で生まれ、基地の街・横須賀市の六畳一間で育ったと言う。多摩美で染色を学び、その後、写真を独習した。出世作である「絶唱、横須賀ストーリー」は有名だが、私が一番引き付けられたのは、二〇〇二年に発表した連作「Mother‘s」#38。母親の遺品の口紅を撮った作品だ。単に口紅を撮っただけの写真なのだが、昔の光が写真の中に映し出されている感じがする。観ているだけで心が揺さぶられる不思議な作品だ。読者の皆さんにも、ぜひ機会があれば観てみてほしいと思う。
ここにまでGAFAの影
最後に紹介したいのは、これも朝日新聞。一月九日のウクライナ関係の記事だ。記事によると、ロシア軍がウクライナに進攻する一週間前の二〇二二年二月十七日に、ウクライナ議会は政府が持つデータを外部で保管を禁じる法律を改正し、国外移転を可能にしたと言う。アマゾンのクラウド事業幹部が、進行当日に駐英ウクライナ大使と会談し、その後、スタッフが携帯型データサーバーと共にポーランドに飛び、サーバーだけを陸路でウクライナに輸送し、データを欧州に運び出したという。そのデータサーバーが写真で紹介されていたが、スーツケース程度の大きさで、「スノーボール」と呼ばれている製品だ。そんな小さなもので、ウクライナ政府が持つデータを移転できたというのも驚きだが、何よりも、アメリカの、いわゆるGAFAと呼ばれる大手IT企業のビジネスは、あらゆる局面で登場するのだと思い知らされた気がした。世界は複雑だ。
筆者プロフィール
石井 至(いしい・いたる)
昭和四十年、北海道生まれ。東京大学医学部卒。フランス系のインドスエズ銀行を経て、平成九年に石井兄弟社設立。同社代表取締役。金融ハイテク技術コンサルタントを行う他、東京にて幼児教室「アンテナ・プレスクール」を主宰。