すでに国民常識となった「属国・日本」の現実
今年、紫綬褒章を受章したアニメ監督・庵野秀明氏の最新作で、興行収入四〇億円を超える大ヒット作となった映画『シン・ウルトラマン』。その中で、怪獣ならぬ「禍威獣」対策に追われる日本政府に対し、それまで攻撃用の武器を売りつける以外なんの手助けもしなかったアメリカ政府が、科特隊ならぬ「禍特対」の隊員が、宇宙人ならぬ「外星人」と接触したと知った途端急に干渉してきた事に対し、登場人物の一人が思わず「属国に頼るな!」と愚痴るシーンがあった。
実は庵野監督の前作品で、やはり興行収入八〇億円を超える大ヒット作となった『シン・ゴジラ』でも、主人公を演じる竹野内豊が「戦後日本は常に彼の国の属国だ」というセリフを言い放つシーンがある。つまり弊会が「対米自立」という原則を変わらず訴え続けている間に、いつの間にか一般国民の間でも、戦後日本が独立国ではない、アメリカの一属国に過ぎないという事実が、どうやら常識として定着してしまっていたようなのである。
①日本国内で殺人・レイプ等の罪を犯した米兵や嘱託職員は、米軍基地に逃げ込んでさえしまえば、日本警察は手出しできず、米国政府の許可がなければ裁判にかけることも出来ない。
②米兵だけでなく米軍基地嘱託の職員やその家族も、基地を通せば、ヴィザもパスポートも無しに日本国内に自由に出入り出来る為、コロナ対策の検疫等も彼らには一切行えない。
③日米地位協定では、日本国中いつでもどこでも好きなだけ日本政府の許可なしに米軍が演習出来る。その結果として日本側に何らかの実害が発生したとしても、日本はアメリカに損害賠償請求すら出来ない。
④米軍機等が日本国内で事故を起こせば、その一帯は米軍によりただちに封鎖され、日本警察も消防も現場に一切立ち入ることが出来ず、調査報告も受けられない(もちろん人的・物的損害に対する賠償など一切無い)。
⑤米軍基地や米軍機、艦船等から、日本の環境基準値をはるかに超える汚染物質をいくら垂れ流されようとも、日本政府はアメリカに抗議一つ出来ない。
⑥関東一都六県の上空の大半は、通称「横田ラプコン」と呼ばれる米軍横田基地の管制空域に入ってしまっており、日本の航空機は、米軍の管制許可が無ければ、自国の首都の空すら自由に飛ぶことが出来ない。
⑦トランプ大統領以降、米国の要人は皆、日本の表玄関である成田空港を通らず、横田基地から勝手にさっさと出入りするのが慣例化してしまった。
⑧これほど無数の迷惑を受けていながら、日本政府はアメリカに迷惑料を請求するどころか、逆に年間二一一〇億円もの自称「思いやり予算」とやらを献上し続けている。
⑨その上、本来自国のために使うべき「防衛費」も、その多くが現場では「役に立たない」と忌み嫌われている(しかも技術的ブラックボックスがあるため、故障しても自力では修理できないどころか、AI化による遠隔操作でいつ使用不能にされてしまうかも分からない)米国製兵器のモンキーモデルを、アメリカの言い値のままに買わされ続けている→その為防衛予算の総額は増え続けているにも関わらず、自衛隊の最末端では、すべての兵士が当然に携行すべき救急医療器具すら、深刻な不足をきたしているという。
他にも「日本の自衛隊車両が高速道路を通るときにはちゃんと料金を払わねばならないのに、米軍車両は無料で通行し放題」とか、いちいち細かく上げていけばキリが無いほど、この国におけるアメリカの優越的地位は圧倒的なのだ。
「奴隷の平和」に安住する者たちそれなのに、だ。
こうした問題点の数々を弊会が以前から本紙上で、或いは最近は公式ツイッター等でも何回となく繰り返し告発し続けてきたが、冒頭でも紹介したように、日本が属国状態にあるという現状は、国民的常識としてもすでに定着しつつある。ところが、「こんな屈辱的状況には耐えられない! 日本はアメリカから自立すべきだ!」という目覚めた国民の声は聞こえない。経済的に成長がないのに飼いならされた犬のような国民に成り下がってしまったようだ。
「米兵の犯罪といっても、そんなのは沖縄とか横須賀だけの話でしょ? ウチの近隣には関係ないから」
「日本一国だけで中国やロシアからの侵略なんて防げるわけがない。日米不平等条約は、安全保障に必要不可欠なコストだ」
「アメリカの属国? 中国やロシアの属国に比べりゃずっとマシでしょ」
酷いのになると
「俺は護憲派の保守! 憲法九条も日米安保も両方大賛成! 自国の防衛を他国に任せられるなんて、こんなコストパフォーマンスの良い安全保障政策は無い!」と、恥も外聞もなく放言する輩までいる。
彼らに共通するのは、「在日米軍が居座るのは自国の利益のためであり、日本を守るため『だけ』に自国の若者の血を流す気など全く無い」という、ちょっと考えれば当たり前に分かるアメリカの本音を、致命的に理解出来ないでいることだ。
噂される中台危機がもし実際に起こればどうなるか。日本は守られるどころか「アメリカの盾」として紛争の矢面に立たされることくらい、地図を見れば素人でもすぐにでも理解できるはずだろう。だが(中露に比べればはるかに)やさしい「ご主人様」に飼われ、その微温湯暮らしに慣れてしまうあまり、ついに国防や民族意識に対する基本的な感覚すら喪ってしまった現代日本人には、もはやその程度の想像力を喚起させる力さえ残っていないということなのだろうか。
……実は数年前、たった一度だけその想像力を蘇らせるチャンスがあった。
トランプ前米国大統領が、在日米軍駐留費の問題に触れ「駐留費を五倍に引き上げろ! さもなくば在日米軍撤退だ!」と、日本にブラフをかけてきたときの事である。
もしその時の政権が「ああそうですか」とばかりに在日米軍撤退にあっさり応じてしまう。或いはそこまではいかずとも「駐留費はこれ以上増やせないので、その分在日米軍を今の五分の一に減らして下さい」とでもやり返しておれば、日本は自分の足で立っていくキッカケを作れたのかも知れない。まさに、自国の安全保障について、自主外交を含め、真剣に考えざるを得ない環境に追いやられていた事であろう。残念ながらそのチャンスは、海外メディアが「スマイル・タフネス」と褒めたたえる安倍元首相の曖昧戦術により、結局ウヤムヤにされてしまったが……。
もはや日本国民の内発的な覚醒が、自立を求める訴えを強化するしかない。対米自立のためには、これまで過去に何度もやってきた通り、海外からの衝撃により日本の変革を促すしかない。
幸い今の世界には、西洋文明の核心ともいうべき資本主義と民主政体の行き詰まりという、日本の危機どころではない深刻な事態が進行しつつある。
もし世界の大方の予想に反し、ロシアがウクライナ戦争に勝ってしまったら。或いは中台紛争が本当に勃発し、しかも米日台側が実質的に負けてしまったら、そのシミュレーションをしておく必要があろう。だが、国民のしっかりした屋台骨を作っておかねばならないのだ。
これによるアメリカおよびその背後にある近代西洋的価値観(民主政体とか資本主義とか人権思想とか)の決定的威信低下は、しかし我々にとっては、対米自立を促す絶好のチャンスともなり得るのである。
【月刊レコンキスタ令和四年一〇月号掲載】