第262回 一水会フォーラム 講演録

トランプ新政権によるディール外交

 トランプの当選後、カナダとメキシコに対する関税を二五%に上げるということやグリーンランドとパナマ運河の話題が議論に上りました。これらを地図に落とし込むと、米国はとりあえず旧大陸でのピースメイキングをしようという意図が見えます。米国の長い外交の歴史での基本路線であるモンロー主義に立ち返っているのです。

 第一期トランプ政権の一番の敵は中国でした。しかし、今政権ではおそらくそうならないというのが私の見方です。今の中国は四年前の中国と全く違っているからです。

 中国はディープシークという生成AIを米国の十分の一の値段で作りました。これは今世紀のスプートニク・ショックだと言われています。さらに、二〇二三年には世界の総特許の四七%を中国一国で獲得しています。中国の技術力はそこまで来たわけです。米国が中国からの輸入に高い関税をかけても、中国にとって米国は輸出額の一一%でしかなく、他にも輸出相手国はいくらでもあるので、貿易戦争で中国に勝つのはほとんど無理でしょう。片腕と頼むイーロン・マスクは中国にたくさんの工場を持っており、米国政府が中国に対して強く出ることは抑えたいポジションです。では中国から何を取るか。

 トランプの基本は「ディール」です。何かを取って何かをあげるという取引をやる。ちなみに私は、取引外交は良いことだと思っています。そもそも外交とは取引です。戦争にしても何にしても、どちら側にも論理がある。だから何かを譲って何かを取ることで妥結する。平和外交というものはディールです。

 それで、何が取引材料となるかをトランプはよく考えたわけです。パナマ運河は、非常に練られた取引材料だと思います。中国にとって一番重要なのは台湾ですが、代わって米国にとってはパナマ運河が大事となります。そこで、台湾とパナマ運河が取引材料になるという可能性は非常に高い。少なくとも、それでうまくいくというのがトランプの考えです。

 ただし、中国がすんなり受け入れるかは簡単ではありません。中国から見てパナマ運河の向こう側にはベネズエラとキューバという友好国があります。ので、中国は、中国が台湾の代わりにベネズエラとキューバを売ったと思われてはなりません。ので、そうでないという形に落とせるかどうかが、ディール成立のポイントとなると私は考えています。

 ちなみに、ベトナム戦争の時、ニクソン大統領とキッシンジャーが仕組んだ米中合意はこれとよく似ています。あの時はベトナムが、自分たちの国に爆弾を落としまくっている米国と中国が手を組むとどうなるかと大変心配しました。これと似たような心配をベネズエラとキューバがするかも知れません。

米国のターゲットは同盟国

 さて、もうひとつの焦点としてトランプが今「軍事力行使の手段も放棄しない」と言っているグリーランドとパナマの問題は、その「相手国」がともに西側同盟国というのも重要です。グリーンランドを保有しているデンマークはNATO加盟国ですし、パナマも北米相互援助条約の加盟国です。そして、二五%関税をかけることとなったカナダもNATO加盟国ですから、今、トランプがターゲットにしているのが同盟国というのが重要です。バイデンの時とは根本的に異なる戦略が日本ではちゃんと認識されていません。

 USスチールの件もまさにそれです。米国の鉄鋼業が弱くなってしまった事実はさておき、日本に買わせない理由が「安全保障上の問題」だというのですから、彼らが日本をそういう国として見ているわけです。敵国扱いです。こんな明確な意思表示に対して、日本では今だに友達と思ってもらっているのだと言う論者がいますが、アホ丸出しです。米国はもはや価値観外交ではない。民主党のバイデン政権は政治体制が同じかどうかが大事だといっていましたが、トランプは違います。米国との間の貿易収支が黒字となっているか赤字となっているかが大事で、価値観はどうでもいいわけです。そして、そうなると、中国と日本は同じ土俵上にいることになって、中国とはTikTokに、日本とはUSスチールに文句をつけています。逆に言うと、今、中国は企業の運営や買収は自主決定に委ねるべきで、政治が介入すべき問題でないと言っていますが、これって日本がUSスチールについて主張していることと全く同じですね。

階級闘争から生まれる政治体制

 私はマルクス経済学をやっておりますので、三年前にこの場でお話させていただいた時も、マルクス主義と民族主義の関係について冒頭で自分の立場を申し上げました。「民族団結のためにも階級問題を解決しなければならない」との立場です。後で述べますように、日本もそろそろ平等な社会を作らなければならない民族的危機に面していると考えています。「階級闘争が必要」というのはそういう意味です。が、この間、私の見解もさらに進んで、その「階級闘争」のためにも現在の民族闘争、具体的には反米闘争が必要だと思うようになりました。

 実際、木村代表も親交のあるフランスの民族派、マリーヌ・ルペンさんが出た大統領選、前々回の大統領選挙の第一投票の結果を見ると、ルペンさんが代弁していたのが労働者階級であったということが分かります。マクロンはパリなど都市部で主に得票していたのですが、ルペンはまったく逆でした。

 また、イギリスのブレグジットの投票結果でも、金融資本が集まるロンドンがEU残留派だったのに対して、イングランドに関する限り、一般庶民が住む地域ではEU離脱派が多数となっています。

 つまり、どういう人々がグローバリゼーションに反対し、あるいは賛成しているのかということで、左派勢力がまったく「階級的」でなかったわけです。フランスで言えば、ルペンだけが対応していて、このことは最近、トマ・ピケティの新刊『資本とイデオロギー』という本でも採り上げられています。英仏の左派は庶民の党ではなく高学歴者の党になってしまっています。金持ちの党になっていってしまっているということです。イギリスのEU離脱投票で見ても高収入者がEU残留に、低収入者がEU離脱に投票していました。

 米国も同じで、不法移民を保護する立場であるハリスとその逆の立場のトランプが対立しましたが、問題は何故ハリス側が不法移民に融和的かで、それが彼らを安く使うことで利益を得る側=資本家階級の側に立っているということです。が、労働者は労働市場でも社会保障基金の奪い合いでも不法移民と矛盾する関係にあります。トランプはそちらの側に立ったということですから、マルクス経済学者からすると「階級闘争」を闘ったことになります。

 実際、米国の民主党を分析すれば、彼の支持層もどんどん高学歴になり、高所得になっています。元来は民主党に低所得者が多く、共和党に高所得者が多かったわけですが、二〇一六年のトランプの選挙で一気に変わりました。高所得者の方が民主党への投票率が高いということです。トランプは共和党をひっくり返して、その性格を転換させたということです。

「反米」と「民族主義」の親和性

 そもそも平等主義である共産主義と民族主義とは親和的です。故鈴木邦男さんは「戦前の右翼は社会革新運動だったが、戦後は単なる反共になってしまった」と言っておられました。戦前の日本の民族主義には社会主義者がいくらでもいた。海外でもインドのチャンドラ・ボースとかイラクのバース党は社会主義ですし、中国、朝鮮、ベトナムの民族主義、ラテン米国の反米民族主義、インドやアフリカの反米民族主義があり、それらはとても親和的です。それをいつの間にか我々は見失っています。

 左翼運動、マルキストは、当初は反米的でした。日本共産党は典型的で、反帝反独占ということを言っていて、反帝の意味は反米国帝国主義ですから、最も反米の政党でした。しかし、どう考えても今の共産党はそうではない。私見では、民主主義や人権などというリベラルな価値観にひっぱられてどんどん変質してしまっています。西側は民主主義的で自由が守られている。一方のロシアや中国は酷い国である―これは完全に嘘ですが、こういう見方に囚われるようになってしまったわけです。

 もう少し経済学的に言いますと、三池炭鉱で日本の石炭産業が米国の圧力に潰されてしまった時には十分「反米」でした。そして、TPPが日本の農民を襲おうとした時も十分「反米」でした。ところが、繊維産業や先端産業、半導体や為替レートが問題となった瞬間に、左翼は反応できませんでした。労働者、農民の利益には反応するものの、そうでないものには反応できなくなるのです。

 もう一つは、東京裁判理解の問題です。私はマルクス主義者なのでレーニンの立場でこの戦争を理解しますが、その立場からは「パールハーバーへの謝罪」という発想は出てきません。というのは、レーニンが『帝国主義論』で論じた帝国主義間戦争論のキモはその戦争の不可避性というところにあったのであって、批判の焦点は「システム」であって一方の国家群のみを批判するというものではありませんでした。もっと申しますと、先発帝国主義と後発帝国主義には利害関係の矛盾があって、その間の戦争が不可避となるというもので、当時、後発帝国主義であった日本はブロック経済を敷いた先発帝国主義に本来あった市場を奪われたという関係にありました。いわゆる「持つ国」と「持たざる国」の間の利害対立です。ブロック経済を敷いた側の方が衝突を必然化したということになります。また、東京裁判で裁かれるべきであった戦争犯罪の一部が米国の都合で裁かれずに終わっているという問題も深刻です。私は東條などの責任が追及されることも当然、南京大虐殺などの残虐行為を裁いたことも当然とは思いますが、それと同時に米国による原爆投下も裁かれなければなりませんでした。無差別爆撃は明確な戦争犯罪だからです。が、この戦争犯罪に口をつぐんだ東京裁判の在り方が、今回の被団協のノーベル平和賞受賞にも影を落とします。世界にアピールするあの絶好の機会に被団協田中代表は一切、米国の責任に触れることがなかったからです。

貧困の先の人口ゼロ国家

 今、バブルと資本主義は全国民的危機を招きつつあります。我々の実質賃金は一九九七年を境にどんどん下がっていて、ピーク時より今は二〇%近く下がっています。一年一年では気がづかないくらいの減少ですが、累積して二〇%にもなると生活スタイルそのものをも変えていて、その最たるものが未婚率の急上昇です。そして、すでに五十歳時点でも男性の二七%が未婚となっています。ただ、最も深刻な若者に注目すると軽く三分の一は未婚となっていますが、これは論理的に言って日本が「人口ゼロ」に向かわざるをえないことを示しています。

 たとえば、今、少し甘く考えて人口の三人に二人までが結婚するとしても、その三分の二で人口を維持するためには、各家庭が子供を三人ずつ産まなければなりません。そして、これは二人しか産まなかった家庭と同じだけ四人産む家庭が必要なこと、一人しか産まなかった家庭と同じだけ五人産む家庭が必要なことを意味していて殆ど不可能です。そして、この結果として日本民族は無限に減少し、最後には消滅します。こういう問題を『「人口ゼロ」の資本論』という本で書きました。低賃金という資本主義のシステムが日本民族の持続性自体の脅威になりつつあるということです。

 百年後の日本の人口を甘く見て三八〇〇万人と計算しました。一〇〇年後の日本はこれから生まれる人間だけで成立する社会ですから、つまりは今後、何人生まれるかだけが重要です。例えば寿命が百歳で、百一歳で必ず死ぬと仮定し、かつ二〇二二年の出生数七七万人がずっと続くと仮定して計算すると百年後の日本人口は七七〇〇万人ですね。

 ですが、出生数はどんどん減ってますし、全員が百歳まで生きるわけではないですから、リアルな予測はその七七〇〇万人よりずっとずっと下ということになります。たとえば、出生数も二〇二三年には七三・五万人に、去年には七二・一万人となっています。

 ですので、実は三八〇〇万人というのも相当甘い予測です。今の現実を直視すると百年後、たぶん二千万人くらいになってしまう。日本の貧困が招いた結果です。

日本を途上国に導いた衰退国家を疑え

 もう一つ深刻な問題は、外国人が昨年三五万人純増したという話です。この数字から将来の日本列島内の民族比率を計算すると次のようになります。

 たとえば、今後毎年七二万人が日本で生まれると甘く仮定しても、その数字と三五万人という数字は二対一の比率となります。つまり、何十年か先に国内に住む人口比率が、こういう比率となるということです。

 一水会さんも国内のクルド人の人たちと親しく交流をされていて、もちろん私も「民族融和派」なのですが、しかし、社会のシステムとして日本がそのような民族比に耐えられるかどうかは不安です。私は先日、外国人比率が二〇%に達しているという群馬県大泉町を訪問し、そこでは基本、平和に共存できていると実感できましたが、全国平均で外国人人口が三分の一となれば現在の欧州のような混乱も十分に予想されます。特に、この一方で日本の若者たちが貧困状況に置かれ続けるのなら、これはれっきとした民族的問題です。私が「民族主義者」にならなければならなかった理由はここにあります。

 ただし、もちろん、こうして民族的問題を考えるなら、現在の対米従属問題を考えざるを得ません。「日本を途上国にした」米国という衰退国家を疑えがテーマです。

 実際、米国は衰退国家ですが、その衰退国家が世界戦略でなんとかやっていくとなると、そこにはニつの戦略しかありえません。

 一つは、その力の状況に応じた戦略の再定義、縮小戦略であり、トランプはその立場です。ニクソンとキッシンジャーもそうでした。ソ連と中国の両方と敵対するのは無理だから、片方と関係改善する道を選んだのです。トランプも同じですね。

 しかし、他方の民主党は弱まっているとは言え、まだ相対的に強い分野としてある軍事と金融に依拠しようとしました。バイデンは特に軍事ですが、逆に言うとトランプはそれを縮小する側にあります。実際は「縮小」してもそれは旧大陸においてだけで、南北アメリカ大陸でそうするかどうか分かりませんが…。

 ただ、ここで一つ大きなニュースとなるのは、代わりに同盟国に軍事負担をさせようとする試みに台湾が拒否をしてきたということです。トランプは台湾に対して軍事負担をGDPの一〇%にまで引き上げるべきだと言い、実際頼清徳政権が大幅軍拡の予算を作ったのですが、台湾の議会が拒否をしたという「事件」です。日本も少数与党となっているのですから、見習ったら…と正直思います。

 トランプは日本にも似たような要求をしてきていますので、石破政権としてはそれに対応せざるを得ないかもしれませんが、多数派の野党がそれを拒否したらいいんです。絶妙の対米関係をこうして作れるかも知れません。

価値観外交が終わる時

 バイデン民主党政権はウクライナ戦争で何を狙っていたのか。もちろんこの戦争は米国が仕組んだものです。ここで戦争を始めるとどうなるか、親米国家がぐっと増えるわけです。軍事的緊張関係があれば、親米政権にならざるを得なくなる。しかし、軍事的緊張関係がなくなれば、みんな自由にやればいいわけですから、親米政権である必要もなくなる。そして、それと関わって価値観外交が終わりました。

 「日経新聞」に面白い記事が上がっていました。「トランプ関税が反米の種になって、欧州が中国と接近も」と書かれていたわけですが、今や価値観は関係ないということです。そして「今後の焦点は米国と同盟国との間に移行」するということです。日本は米国に従属してきました。安保体制の下、様々な形で日本も戦争に実は加担していた。米国は悪い国だということを、ある程度は誰もが知っています。ベトナム戦争で悪かったのも米国だったと皆が考えていますが、しかし、同時に親米が大事だとも日本人は思ってきました。それは米国が決定的に重要な輸出先だったからです。

 日本は輸出立国です。米国は悪い国だと分かっていたとしても、経済的な利益をもたらしたことは否定できません。だから、ともかく西側サイドで、日本は暮らしてきました。しかし、米国は今や保護主義になって、「儲からない国」になってしまいました。また、今までは軽武装を可能とした安保体制であったのが、今や必要以上に軍拡を押し付ける国になってしまっています。かくて、「米国従属のメリット」だった二つともがなくなったというのが現在なのです。

 これまでの歴史で対米関係は日本にとって確かに大切でした。しかし、その理由がなくなろうとしています。そうしたら、なんらかの形で外交関係の調整は起きざるを得ない。これは歴史の必然です。

米国の景気に左右される日本経済

 日本の経済はだいぶ弱まってきましたが、二〇二〇年現在で見て、世界の工作機械生産の四四%を日本一国が占めているなど、大きく言うと、工作機械と中間材では、まだ日本が強いです。が、そうした工作機械や中間材を買ってくれる国は、隣の製造業大国たる中国しかありません。ただ、にもかかわらず、半導体を出発点として、米国はその輸出を規制するまでに至っています。踏んだり蹴ったりもいいところです。半導体について言うと、日本は一九八六年に半導体企業のトップ一〜三位に日本企業が入り、トップ一〇まで広げると六社が入っていました。

 ただし、それが米国の怒りを買って、今や一社も日本企業が残らないほど駄目にされてしまいました。韓国も一度伸びましたが、日本と同じ目にあっています。

 自動車摩擦があった時には、日本の自動車ディーラーが米国の車を売らされました。米国の車を売らないと、米国で商売してはいけないということが強要されました。

 それと同じことが半導体産業においてもありました。半導体産業のようなものは、政府の圧倒的サポートなしにやっていけません。ところが対米合意で、日本国内において使う半導体の二〇%は海外製品でなければならないと決められました。そこで言う海外製品とは、ほとんど米国製品です。無理やり米国製品を買わすようなことをこの時、日本政府はしていました。日本の企業の販売を邪魔するのが日本政府の役割にされてしまっていたということです。これが日本半導体衰退の歴史です。

 バブル経済も実は同じで、日経平均株価を見ると八〇年代のバブル時、四万円の手前まで行き、今は三万八千円くらいですが、この異常な株高はドル防衛のための異常な低金利によってもたらされたものです。当時、米国はドルも経済も共に弱り切っていましたので、経済を活性化するために金利を下げたい、ただしそうするとドルが防衛できなくなるとのジレンマにありました。

 が、よくよく考えると、ドル金利を下げてもそれ以上に日本や西独の金利をさらに下げればドルを維持できるとの判断で日本、西独が米国との財務相会議で協調利下げを行なわされたわけです。

 そして、それで株価が上がり、地価が上がりましたが、そんな株価は維持できるわけがなく、米国の景気回復後に金利を元に戻すと今度はいきなりバブルが崩壊したわけです。ですので、バブル崩壊による「失われた三〇年」というのもその原因が対米従属にあったというのが重要です。

米国に憧れない希望の未来

 現在もさらに異常な低金利です。さすがにマイナス金利は終わりましたが、どう考えても異常な低金利が続いていて、それが異常な資産価格高をもたらしています。東京都内で巨大なビルが建ちまくっている経済的背景にこの異常な低金利があります。

 そして、麻布台ヒルズのテッペンは二百億円で、それを中国人が買ったという噂話もあります。逆に言うと、不動産会社は日本人を相手にしていません。でも、円安だから外国人にはいくらでも買えてしまう。こうして日本の途上国化が進行しています。

 これも民族主義者は怒らなければいけない問題です。まだ米国に親近感を抱く人は日本人の八割くらいを占めていますが、米国に親近感を抱かない人は、若い人ほど多いということも事実です。これは我々の希望でもあります。

 最後に地位協定の問題があります。私は東京七区の市民連合の事務局長もやっておりまして、そこで当選させた松尾明弘さんと繋がりを持っていますが、その松尾さんは、立憲民主党ですから日米基軸論者ということになります。それは立憲民主党である以上、仕方のないことでしょう。

 が、それでも言えることは、それでもさすがに地位協定よしとは言えないということです。東京七区も羽田の低空飛行があり、横田空域と関係しています。港区六本木には在日米軍本部が来ようとしています。そういうことはダメだと国会で討論に立っていただいています。

 ですので、「対米自立」の基本線でいきなり合意ができなくとも、横田空域や地位協定、基地問題などでは共闘できます。国会で毎日、地位協定が議論されるようになれば、我々は勝てるでしょう。あの地位協定が良いとは誰も言えないからです。木村代表も先ほど地位協定がポイントだとおっしゃってました。それを突破口に皆さんと一緒に頑張りたいと思います。(了)

【プロフィール】

大西 広(おおにし・ひろし)

経済学者。1956年生まれ。京都大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士後期課程修了。経済学博士(京都大学、89年)。立命館大学経済学部助教授、京都大学大学院経済学研究科助教授、同教授、慶應義塾大学経済学部教授を歴任。慶應義塾大学・京都大学名誉教授、世界政治経済学会副会長。

著書に『マルクス経済学(第3版)』(慶應義塾大学出版会)、『「人口ゼロ」の資本論』(講談社+α新書)、『ウクライナ戦争と分断される世界』(本の泉社、国際アジア共同体学会岡倉天心記念賞受賞)、『バブルと資本主義が日本をつぶす』(筑摩書房)など。近刊に『反米の選択 トランプ再来で増大する〝従属〟のコスト』(ワニブックス)がある。