元通産相官僚、小林興起が物申す!②

聞き手 作家 上條影虎

通産省次官、佐橋滋との出会い

上條:前回に続き、官僚の話を伺いたいと思います。小林先生は、政治家になるために官僚を経験されたとうかがいましたが、官僚になった時のエピソードを聞かせてください。

小林:私が東京大学法学部に在学時に、当時、特許庁長官だった佐橋滋長官が、法学部主催の講演に来られました。その時に講演が終わった後、佐橋長官が、「私の話を聞きたい者は残って話をしよう」と言われ、もっと話を聞いてみたい私も残りました。
話のさなか、一緒に来ている部下が、「長官、次の予定の時間ですので、そろそろ……」と言うと、佐橋長官は、「そんなのは遅れると伝えろ!」と言って、学生との会合を優先してくれました。

上條:え、次の予定より学生との会合を優先してくれたのですか?

小林:佐橋長官は「キミたちが明日の日本を支える」と言って時間を作ってくれました。その学生を大切にする姿勢の素晴らしさと「官僚ほど面白い仕事はない」と言われ、国民の為に国を創る仕事に魅了されました。そして最後に「君たち、役人になりたかったら、私を訪ねてきなさい」と言われました。そして私は、卒業時事務次官になった、佐橋さんがいる通産省へ行きました。

上條:佐橋次官が来いと言ったから行ったのですか?

小林:そうです。だから面接の時、面接官に「なぜ通産省を選んだのか?」と聞かれたので「佐橋次官が来いと言ったので来ました!」と答えました。もちろん、佐橋次官に伝わってはいないと思いますが……。

上條:凄いですね、佐橋次官がいる通産省に入ったのも運命を感じますね。

小林:ところが佐橋次官は、私が入ってから数カ月で退職となりました。

上條:それは残念ですね……。

小林:しかし人生は面白い。通常、官僚は天下りをするのですか、佐橋次官は天下りが嫌いで退官後企業には勤めたくないと浪人をされた。そして数年が過ぎた頃、通産省が管轄する公益法人、余暇開発センターが設立され、これは、高度成長期後の国民の余暇を考え、生きがいを与えるセンターですがそこの理事長に佐橋さんがなった。そして私は通産省の余暇開発室室長になったんですよ。本当にめぐり合わせはあるものだと思います。それから佐橋理事長と仕事が出来たんですから。

上條:めぐり合わせと言えば、私の長女が聖心女子大学を卒業しました。小林先生は昔、聖心女子大学の非常勤講師をされていたようですね。

小林:まさに余暇開発センターの時代ですよ。人生の生きがいを教える授業で、人生の仕事以外をどう楽しく生きるのか? という事をテーマに女子大から話があって現職の役人でも大学の講師はできるということで教えていました。

「堺屋太一」こと、池口小太郎との出会い

上條:その他にも印象に残る出会いはありましたか?

小林:堺屋太一さんともそうでした。私が鉱山局鉱政課の係長をやっていた時の課長補佐が堺屋太一こと、池口小太郎さんでした。ご承知の通り、堺屋太一は作家名で本名は池口小太郎です。池口さんにも色々と勉強させてもらいました。

上條:堺屋太一さんは、作家としてもイメージが強いですが、どんな方ですか?

小林:池口さんは、鉱山局に来る前は、万博の誘致に尽力し、実現させた人です。だから鉱山局に来た後も、何度か一緒に万博に行きました。
池口さんは、午前中は仕事に来ないんですよ、なぜかと言うと、私たち若い部下を料亭などに連れていき、そこで本音で話を聞いてくれたり、マージャンをしたりしてコミュニケーションを取り「お前たちが日本の未来を支えるんだから頑張れ!」そう励ましてくれる。そして〇時になると「明日の仕事に支障が出ないように、もう帰ってねなさい」と言って私たちを帰すんです。池口さんはそこから自分の勉強をするんです。勉強をしたり本を書いたり、朝までする。だから午前中は来ないんです。寝ていますからね(笑)

上條:部下思いの良い上司だったのですね。佐橋さんも堺屋さんも素晴らしい人だと思いますが、先生が教えられた事はありますか?

小林:お二人から教えられた事はたくさんあります。その中で印象に残っている事を言うと、佐橋さんから言われた事は「政治家は選挙があるから忙しい。だから役人のお前たちが国民の為の政策をつくれ」と言われました。官僚の仕事の重要性ややりがいを教えられました。池口さんには、国のために働く部下たちを大事にし、時間を有効活用する事を教えられました。

官僚時代の出会いが政治家としての信念をつくった

上條:その後、小林先生の人生に影響はありましたか?

小林:私は政治家を志し、立候補してから八年間浪人をしました。心が折れそうになった時もありましたが、官僚時代の大先輩たちと働いた経験などが「国の為に必ず政治家になる!」という強い信念を支えました。そして政治家になった。それが今の政治家はどうですか? 国の為にという信念を持った政治家がいない。それと政治家には確かに勉強だけが大事ではないが、最近の政治家は若い時から勉強をしたことがない。勉強があまりにもできない。そういう人が、親が政治家というだけで、党の公認をたやすく取って選挙で勝って政治家になる。これは悲しい事であり、国民の為にならないのです。

上條:ありがとうございました。次回は先生が懸念する、日本の教育問題をお話し頂きたいと思います。